猫の手貸します

case10:説得

once upon a time(4)




 翌日、約束した時間きっかりに、桐子は待ち合わせ場所に現れた。
「……変わってないわ」
 環の向かいの席に腰かけ、喫茶店の店内を見回しながら、独り言のように呟く。
 彼女の携帯に連絡して、「少し話が出来ないか」 との環の申し出に、桐子が、じゃあここで、と指定したのは、事務所から四つほど駅を通過したところにある、小さな町の、小さな喫茶店だった。ランチもやっているようだが、昼にはまだ時間があるためか、ほとんど客は入っていない。環と桐子の他には、サラリーマンらしい中年男が、新聞を広げてコーヒーを飲んでいるだけだ。
 メニューを見ても、カフェのような洒落た内容とは程遠い店である。壁や柱がどっしりとした木製の色目で落ち着いていて、照明も、流れているBGMも抑え目だ。華やかさや楽しさはないけれど、ゆったりと寛げる気分になれる。そしてコーヒーの味もかなりいい。
 こういう店、時子が好きそうだな、となんとなく思った。時子は自分が賑やかな性格をしているくせに、騒々しい場所はあまり好まない。
「すみません、一方的に場所を決めてしまって。ここ、判りにくかったでしょう」
 苦笑気味に謝る桐子に、昨日見せていた険しさはなかった。
「いえ。呼び立てたのはこっちですし、このあたりのことは、全然知らないってわけでもないので」
 環がそう応じると、桐子は少しの間のあとで、ああ、と納得したように頷いた。
「時子さんが今住んでいるのも、ここからそう遠くないですものね」
「いえ──」
 言いかけ、口を閉じる。ちょっとだけ視線を下に向け、このあたりは何度も来たことがあるから、と小さな声で続けたが、それは桐子の耳には届かなかったようだ。
「この店、私も以前はよく来たんですよ。……彼女の家に遊びに来た時なんかにね、『美味しいコーヒーを飲みに行こう』 って二人で来たりして。まだ小さかった時子ちゃんを一緒に連れてきたこともあります。あの子、ここのホットケーキが大好きで、よく注文してあげました。昔からおませだったから、私たちの会話に口を出して、大人びたことを言うわりに、口の周りはシロップとクリームでベタベタでね。私たち、もう可笑しくて可笑しくて、涙が出るほど笑い転げました」
「…………」
 桐子の言う 「彼女」 は確かめるまでもなく誰のことか環には判った。この店は、以前に時子が家族三人で暮らしていた家の近くにあるのだ。その家は、もう他人の手に渡ってしまったが。
 過ぎた昔のことを口にする桐子の瞳には、ただ懐かしさしかないように見えた。「時子ちゃん」 と昔の呼び名を使っているのも、多分、自覚していないのだろう。この店の静かな空気が、桐子の心の時間を十年以上も昔に引き寄せてしまっているのかもしれなかった。
 この店内で明るい笑い声を弾かせていた友人同士の幻影でも見ているように、その目は、ここではないどこか遠くに向けられている。
 しかしそれはほんの一瞬のことで、彼女はすぐに 「現実」 に戻ってきた。たちまち表情に、暗い翳りが差す。
「……それで、お話というのは」
 問われて、環は一旦口を噤み、それから考えつつぽつぽつと話した。
「──昨日のことなんですが」
 もともと口下手なうえに、なるべく他人と関わらずに生きてきた環にとって、こういう改まった場はまったく得意ではない。ここに来る前、鈴鹿にも非常に心配されて、「頑張っておいで」 と余計な激励までされたくらいだ。時子には言わずに桐子と話をしてくる、ということしか鈴鹿には伝えていないのだが、どうせまたピントのずれた解釈をしているのだろう、きっと。
 頑張るもなにも、環が桐子に話す内容は、ほとんど事実の伝達だけなのだが。桐子が事務所に来たということを知った時の、時子の様子、顔つき、そして言ったことを、淡々と順番に言葉にして並べるに過ぎない。

 ──私の声が、気持ちが、あの人たちにはどうしても届かない、と時子が言うから。
 だったら、俺がそれをしよう、と環は思ったのである。

「……あなたのことが大好きだった、と言ってました」
 少なくともそれだけは、桐子は知っておくべきだ。
「…………」
 桐子は環の話を黙って聞いた後、自分の口許に手を当てた。おそらく、そこが震えているのを隠しているのだろう。視線がテーブルの上のコーヒーカップに据えられて、瞼だけがぴりぴりと引き攣ったように動いている。だが、彼女は必死で込み上げてくるものを呑み込んで、瞳から涙を落とす代わりに、深くひっそりとした息を吐き出した。
「……そう、ですか」
「トキの中にも、複雑な心情は残っているでしょう、もちろん。それをすべて消化しきれているとは、俺だって思っていませんが」
 時々見え隠れする時子の深淵。覗き込めば、ぞっとするくらいに深くて暗いのかもしれない。そこにあるのは、綺麗で明るいものばかりではないだろう。表面に出ているものだけが、彼女のすべてではない。けれど。
「でもせめて、今のトキの、ありのままの姿を見てやってもらえませんか。母親は母親で、トキはトキだ。憎まれているから信頼を結ぶのは不可能だと切り捨ててしまうことは、トキの存在や気持ちまで放り出すこととおんなじだ。ここにいる、あいつのことを、きちんと目に入れてやってもらえませんか」
「…………」
 桐子は口元を手で覆ったままだったが、すでにその手自体が震えていて、隠している意味がない。しばらくして、「……私、たち」 と吐息のような声が、そこから漏れ出した。
「あんな結果になって、私と夫は、周囲からあらゆる非難を受けました。どこに行っても、誰と会っても、そこには私たちを責める声しかなかった。不倫も離婚も再婚も、世の中には溢れるほどたくさんあるのに、どうして私たちばかりがこんなにも言われなければならないのかと思うくらい、中傷を浴びました。彼女を殺したのはお前らだと、面と向かって罵倒されたこともあります。親も、親戚も、友人も、誰一人として私たちを許してくれる人はおらず、私たち二人は、逃げるようにして渡米する選択しかなかった。そんな中で、どうしてよりにもよって時子さんが、私たちを恨んでいないなんて思うことが出来ますか」
「つらい思いをしたのは、あなた達だけじゃない」
 環の素っ気ない口調は生来のものだが、今の桐子にとってはかなり冷淡に響いたらしい。瞳に勝ち気な色を取り戻し、きっと顔を上げた。
「ええ、その通りです。いちばん悪いのは私です。親友から夫を取り上げて、家庭を壊した私には、泣き言を口にする資格なんてないんでしょう。でも──」
 昨日の頑なな態度が戻ってきて、また怒ったような言い方になっている。急き込んで何かを言い募ろうとする言葉を 「そういうことじゃなく」 と環は溜め息と共に遮った。
 どうやら桐子の心はまだ傷口からじくじくと血を流し続けていて、そこを少しでも触れられると、過敏に反応してしまうらしい、とやっとのことで気づいた。しかし気づいたからといって、環はそういうところに気を廻せるような性分をしていない。
 面倒だ──と、いつもの調子で放り投げてしまいたくなるのを、なんとか押しとどめる。こういった方面でそういう努力をするのは、もしかしたら生まれて初めてかもしれない。
「あなた達に、どんなドラマがあって、どんな愛憎劇があったかなんてこと、正直言って、俺には知ったことじゃないんです」
 親友同士だった二人の女と、一人の男。
 泥沼があり、破綻があり、愁嘆場があったことくらいは想像できる。奪った女が悪い、なんていう単純な構図の問題ではないのだろうし、もしかしたら普通なら離婚で済んでいたものが、仲の良い友人同士だったからこそ生まれた意地や憎悪、なんてものもあっただろう。
 こんなことに是非があるわけでも、善悪があるわけでもない。それくらい弁えられる程度には、環は世の中を見てきている。夜の仕事をしていた頃は、もっと醜いものだって周囲にはたくさんあった。
「そこには興味がないんで、どうでもいいです」
 本気で 「どうでもいい」 という口ぶりに、桐子は毒気を抜かれたように再び口を閉じた。
「そうやって、みんなから責められても、詰られても、あなた達は一緒にいることを選んだんでしょう」
「ええ」
 と、桐子が返事をする。それ以上何かを言うつもりはないようだが、目の端には、まだ依怙地な光がしぶとく居座っていた。きっとこうやってずっと、彼女はあらゆるものと戦ってきたんだろう。戦わなくては、やってこれなかったのだ。
「──だったら、それらはあなた達だけで解決するものなんじゃないか、っていうことです」

 桐子にも、時子の父親にも。
 申し訳なさや、罪悪感は、そりゃあるだろう。
 そしてそれと同じくらい、自分たちなりの言い分も、悔しさも、やりきれなさもあるだろう。
 けれどそれは全部、自分自身でどうにかしなければいけないものだ。
 時子がずっと、そうしてきたように。

「つらさも苦しさも悲しさも、あなた達はあなた達自身の手で、なんとかしてもらえませんか。逃げるなり、呑み込むなり、乗り越えるなり、好きにすればいい。でもどれを選ぶにしろ、それは、自分にしか出来ないことでしょう。誰かが肩代わりするようなもんでもなければ、誰かに押し付けるようなもんでもない。少なくとも、トキは、自分だけで何とかしようと頑張ってた」
 頑張っていた──というより、頑張っている、の方がいいだろうか。時子はまだそれを乗り越えようとしている途中なのかもしれないのだ。
「渡米するようトキを説得して欲しい、とのことでしたが」
 環は真正面から桐子を見て、昨日の返事をきっぱりと口にした。
「自分たちの負担を軽くするためということなら、お断りです」
 いつかは、離れていくのだとしても。
 そんな理由で時子を望む人間の手には、渡さない。
「…………」
 桐子はまじまじと環を見返して、しばらく黙り込んだ後、わずかにふっと口元を和らげた。
「それは、恋人としてですか? 仕事としてですか?」
「…………。両方です」
 仏頂面で答えると、桐子はまたさらに笑みを深くした。本来の彼女はこういう人柄なんだろうなと感じさせるような、優しげな笑顔だった。
「ごめんなさい。私、あなたのこと、誤解してました」
 昨日は失礼なことを言いました、と頭を下げた。何をどう誤解していたのかは知らないが、高校生の女の子に手を出した 「便利屋」 という仕事をしている男、という情報から、桐子の中にどういう胡乱な人物像が出来ていたのかは想像がつく。そして言ってはなんだが、それは多分、実像とそう違ってもいない。
「別に、誤解じゃないからいいです」
 だから環としては率直にそう返したのだが、その返事が可笑しかったらしく、桐子はくすくす笑った。
 それから少しして笑いを収めると、桐子はすっかり冷めてしまったコーヒーの入ったカップに手を伸ばし、
「……お葬式の時、ね」
 と、静かに切り出した。
「私と聡一は、泣きませんでした。それはそうですよね。世界中の人が彼女の死を悲しんだって、私たちには、悲しむ権利なんてない。周りの好奇の目にひたすら耐えて、お焼香も出来ず、隅でじっとしているしか出来ませんでした。──けれどもね」
 コーヒーを口に含み、また戻す。カチン、とソーサーの上で、カップがかすかな音を立てた。
「時子ちゃんも、泣いていませんでした。泣き崩れるお祖母さんを支えて、宥めて、参列者に挨拶もして、立派に喪主の代理を務めていました。最初から最後まで、一粒の涙も零しませんでした。私たちはずっとそれを、悲しみよりも怒りが上回っているためなんだろう、と思っていました。それだけ、私たちのことを憎んでいるのだろう、と。……でも、もしかしたら、違っていたのかもしれません」
 あの子にはあの子の、「泣けない理由」 があったのかもしれません、と呟くように続けた。
「それはでも、とても不幸なことですよね。母親を失ったことよりも、その死を悼むことも出来ないなんて、不幸で、痛ましいことです。時子ちゃんはまだ、高校生だったのに」
 そして、ゆっくりと立ち上がった。
「──帰って、聡一と話し合います。私たち、いい大人なんですもの。もっとちゃんと自分と相手に向き合わなくてはね。二人で、頑張って乗り越えて、これからのことを考えます」
 再び、深々と頭を下げる。
「不破さん、時子ちゃんのこと、よろしくお願いします。私には聡一がおりますけど、あの子には、あなたしかいませんから」
「……逢坂さんがいます」
 ぼそりと出した反論に、桐子は首を横に振った。
「いいえ。お祖母さんでは、ダメです。あの人はとてもいい人ですけど、それでもやっぱり、時子ちゃんの 『家族』 ですから。家族ではどうにもならないことが、どうしても、あるんですよ」
 テーブルの上にコーヒーの代金をそっと置いて、
「時子ちゃんを説得してもらうつもりが、私が説得されてしまいましたね」
 そう言って笑うと、店を出て行った。



          ***


「たーまーきーくーん!」
 事務所の窓の外から、大きな声がする。
 いつものバイトの入り方とは違うパターンだが、どちらにしろ騒々しいことには変わりない。いちばん窓の近くに席のある鈴鹿が、苦々しい顔で後ろを振り返った。
「時子君、このビルの中には他の入居者もあるんだからさあ、その騒音はどうかと思うよ、僕は」
 注意をするのに、窓を細めに開けているだけなのは、冷たい外気に触れるのが嫌だからなのだろう。いつもよりも冷え込みの厳しい今日、寒さに弱い鈴鹿は、昼食も環に買い出しを頼む体たらくである。
 時子はビルの外の駐車場に立ったままだ。窓ガラスの隙間のこちらと向こうで、二人は中身のない会話を続けている。
「所長、窓はガーッと開けたほうが換気出来ていいですよー。そこのエアコン、オンボロだから、かけたまんまでいると空気悪いです」
「オンボロってまた古くさい言い方して。ていうか、そういう外聞の悪いことを外から大声で叫ばないでくれる?」
「午前中から所長と二人っきりでいる私の環君が窒息するかもしれないので、換気は絶対必要ですよ」
「どういう意味かな。いいから、入っておいで。風邪ひくよ」
「平気です。所長も外に出てきませんか。気温が低いと、空気が澄んで、すっごく気持ちいいです。私、真冬って大好きなんですよー」
「そんなこと思うの、ホッキョクグマと、君くらいのもんだよ」
 呆れる鈴鹿の声は、時子の耳に入っていないらしい。席を立って窓際に移動した環を見つけ、時子はぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「環君環君、ちょっと出てきてー! いいものがあるの!」
「いいもの?」
 その 「いいもの」 は事務所の中で披露するのでは駄目なのか、と不思議に思いながらビルの外に出ると、待ち構えていた時子が、「ほら!」 と指先を元気よく天に向けた。
「?」
 見上げると、午前中からなんとなく曇りがちだった空は、灰色っぽい雲が一面に広がり、すっかり太陽を覆ってしまっていた。この時期、光が差さないと、気温は下がる一方だ。冷たい風が、あっという間に体温を奪っていく。
「雨でも降るんじゃないか。早く中に──」
 入った方がいいぞ、と言いかけた言葉は、舌に乗る前に止まった。
 雨、じゃない。
「……雪か」
 目を凝らしてみれば、ちらちらと白いものが舞っている。気づくか気づかないか、というくらいの雪だったが、この冷え込みからして、これから本格的に降るのかもしれない。
「積もるかなあ」
 気の早いことを言って、時子がわくわくとした顔で上を向いている。
「そういや、もうすぐお前の誕生日だな」
 ふと思いついてそう言ったら、隣でぶぶーっと噴き出された。
「環君て、毎年、雪を見ると同じこと言うよね」
「そうだっけ」
 どうも、環にとって、「雪」 と、「時子の誕生日」 は無意識の領域でしっかり結びついてしまっているらしい。雪を見ると、いつも最初に思いつくのはそれなのだ。
「なにか欲しいものあるか?」
 時子はさほどプレゼントというものに執着がないようなので、誕生日には一緒に買い物に行って、本人が 「これ」 と言うものを買ってやっている。ちなみに去年は、可愛い絵柄のついた長靴だった。なんで長靴? と聞いてみたら、「雪が降ったら雪ダルマを作るのよ」 と張り切って返された。よくは判らないが、多分、恋人同士のプレゼントとして、あんまり一般的ではないような気がする。
 今回は一体なんて言われるんだ、と期待半分不安半分で訊いてみた環の問いに、すぐに答えは返ってこない。
「そうだね……環君が、そばにいてくれればいいかな」
 少しの沈黙の後で、ぽつりと言われた。
「…………」
 空に向けていた顔を、時子に戻すと、にこ、と笑いかけられた。
「桐子さんから、電話があったよ。──次に日本に帰ってきたら、もう一度話をしましょう、って。時間がかかるかもしれないけど、今度こそちゃんと私の話を聞けるように頑張るから、って」
「……うん」
 少し下を向きながら、頷いた。口から出る息が白い。煙草を持って来ればよかったな、と後悔した。そうしたら、煙なのか溜め息なのか、判らなかっただろうに。
(次に、日本に帰ってきたら……)
 ──その時、時子の父親は、桐子は、逢坂さんは、どんな結論を出すのかな、と思った。
 それぞれに考えがあり、思惑があり、願いがある。
 絡み合って、もつれた糸のその先に、時子の 「未来」 があるわけだ。時子はまだ学生で、いつでもどんな時でも、時子の意志と希望が最優先されるわけじゃない。環はそれを知っている。時子もそれを知らないほど、子供じゃない。桐子や父親はともかく、それが祖母の願いでもあると知ったら、時子は環に言ったように、「私が決めることだから」 などとは押し返せないに違いない。時子にとって、祖母はそれほどに存在が大きい。
 その時、時子は、そして自分は、どうするんだろう。
「私の誕生日には、また雪が降るかな。環君とはじめて会った時みたいに」
 ちらつく雪の中で、時子が、楽しみだねえ、と目を細めた。
「…………」
 環は少し笑って、曖昧に首を傾げる。


 ──雪の中、一人で立っていた少女。
 その日は、彼女の誕生日だった。生まれてきてよかったね、と本来なら温かく祝ってもらえるはずの日、身動きもせずに雪に埋もれて立ち尽くしていた。
 環が彼女に傘を差しかけたあの雪の日を、時子は 「環君とはじめて会った時」 だと信じている。


(……けど、本当は)
 違うってことを、時子は知らない。
(あれが、はじめてじゃない)
 本当は違う。環はそれよりももっと前から時子を見ていた。何度も。
 時子はほとんど昔のことを話さないけれど、環はその一部を知っている。
 制服を着て学校から帰るところも、祖母と一緒に出掛けるところも、他人が住んでいる前の家に一人きりでこっそりと行って、じっと見つめる横顔も。
(知ってるんだ)
 いつでも真っ直ぐに前を見る瞳から、目が離せなかった。
 環にとって、世界はいつも灰色だったのに。
 ……彼女を見ていると、その世界に、鮮やかな色彩がつくみたいだった。


「うん──俺も、雪は嫌いじゃない」
 好きだよ、と、小さな声で呟いた。



BACK   TOP   Last case

Copyright (c) はな  All rights reserved.