リライト・ライト・ラスト・トライ

第四章

4.帰結



 二日後の朝、ミーシアさんが、また別の若い侍女の人を連れてきた。
「メルディ・リラ・センネと申します」
 今度の人はサリナさんとは違い、自分からはきはきとそう名乗って顔を上げ、椅子に座るわたしと目を合わせるとニコッと笑った。
「…………」
 わたしはひとつ瞬きをしてから、ミーシアさんの傍らに立つその人物をまじまじと見る。
 ミーシアさんは兄のロウガさんに似て、女性にしては背の高いほうだ。そして頬や手足が少しふっくらしていて、にこにこ笑うとそれだけで周りまで温かくしてしまいそうな、おっとりとした母性的な雰囲気がある。
 けれど、メルディと名乗ったその人は、ミーシアさんよりも頭ひとつ分くらい小さくて、しかもほっそりとして、見るからに闊達な性格が全身から滲み出ていた。こちらをまっすぐ向く赤茶の瞳も、いかにもはしっこそうで、わたしの上から下までを素早く動いている。
 彼女を見ているのはこちらなのに、こちらのほうが観察、あるいは値踏みされているような気分になる目だった。
「わたし、神官さんの裾を踏んづけたのは一回しかなかったと思うんですけど」
「は?」
 わたしの言葉に、メルディさんがきょとんとし、口許を押さえたミーシアさんが軽く声を立てて笑った。
「今日はお礼ではなく、ご挨拶でございます、守護さま。こちらの侍女は、本日より新しくこの神ノ宮に仕えることになりました者で、これからお目に入ることもあろうかと。いろいろと不慣れなこともありましょうが、どうぞお許しくださいませ」
「新しく……」
 ミーシアさんの説明に、わたしは小さく呟いた。
 神ノ宮は、あまり侍女の入れ替えを行わない。時に神官たちの横暴さに手を焼くことはあるのだろうけれど、神ノ宮の侍女という職は平民女性にとっては誉れ高いものなのだそうで、滅多に辞めていく人がいないからだ。神ノ宮仕えが決まるというのは、親類中で祝いの宴が催されるほどの慶事であるらしい。
「不束者ではございますが、一生懸命務めさせていただきます。よろしくお願いいたします」
 メルディさんは深々としおらしく頭を下げてから、また真っ向からわたしと目を合わせた。
 ちらっと口の端を上げる。
「…………」
 わたしはちょっと考えてから、ミーシアさんのほうを向いた。
「ミーシアさん、前々から思っていたことなんですが」
「はい、なんでございましょう?」
 ミーシアさんがいつものように、なんの疑いもない顔で、屈託なく応じてくる。
「わたしのワガママでお世話係をミーシアさんだけにお願いしていたんですけど、やっぱり、一人じゃ大変ですよね。この機会に、ここにいるメルディさんに、補佐として付いてもらいませんか」
「え、補佐、ですか?」
 わたしの唐突な提案に、ミーシアさんはびっくりしたように目を見開いた。
「ミーシアさんのアシスタントです。これまでどおり、わたしのお世話はミーシアさんにしてもらいますが、手が足りない時に、このメルディさんにお手伝いを頼む、というのはどうでしょう」
「お手伝い……いえ、でも」
「ミーシアさんよりも年上のベテランさんにその役割をしてもらうのは、ミーシアさんも気兼ねしたりしてやりにくいでしょうから。新米の侍女さんに仕事を教える、という形で手伝ってもらえばいいんじゃないでしょうか。大神官さんにはわたしから話をしておきます」
「あ、はい、守護さまがそう仰るのでしたら、もちろん……でも、あの」
 ミーシアさんが俯きがちになって、白いエプロンの端をもじもじと手で握った。
「わたくし一人では、やはり何かと行き届かず……」
「そんなことはまったくありませんし、そばにいてくれるのはミーシアさん一人で全然いいんですけど」
 少し力を込めてそう言うと、ミーシアさんはおずおずとまた目を上げた。言葉の裏を読み取ることは苦手なミーシアさんだけれど、純真であるがゆえに、人の言葉の嘘と真実を直感で見分けることは上手だ。だから多分、わたしのこの台詞が、偽りない本音であることも判ってくれるだろう。
 わたしは本当に本心から、そばにいるのはミーシアさんだけでいいと思っている。正直、メルディさんのような人を自分のすぐ近くに置くのはものすごくイヤだ。わたしの世話係、という名目ではなく、ミーシアさんのアシスタント、という位置が、ギリギリ譲歩できる線、ということである。
「でもミーシアさん一人に重労働を押しつけて、倒れられたりしたら大変困ります」
 そして、転んだりぶつかったりしてケガをされても困ります。
「ストレスがたまったら新人をいびって発散すればいいし、その点でもいいかと思うんですけど」
「まあ、守護さまったら」
 ミーシアさんが噴き出して、ふふっと笑ったので、ほっとした。
「承知いたしました。それでは、メルディと二人で、守護さまがご不自由な思いをされませんよう、これからも精一杯お世話を続けてまいりたいと思います」
 と、頭を下げるミーシアさんを、傍らに立つメルディさんは、まっすぐ立ったまま薄い微笑を貼り付けて眺めていた。ここは一緒に頭を下げる場面だと思うんだけど……ミーシアさんは気づいていないようだから、まあいいか。
「じゃあ、少しだけ、メルディさんと二人でお話しする時間をもらってもいいでしょうか」
 わたしが言うと、ミーシアさんは 「承知いたしました」 と部屋を出て行った。
 パタン、とドアが閉じる音を聞いて、ふうと息を吐く。メルディさんがくすっと笑った。
「丸め込むのがお上手ですね」
「どういたしまして」
 内心、けっこうゲッソリだ。テーブルに肘を突き、じろりと目の前に残った人物に目をやる。
「……で、あなたは」
「ご推察通り、王ノ宮からの密偵でございます」
 メルディさんはそう言って礼を取る仕草をし、にっこりと人の悪い笑みを浮かべた。


「どうしてお判りになりました? 私、これでもちゃんと神ノ宮の侍女らしく振る舞ったつもりなんですけどね」
 すっかり居直ったメルディさんは、くすくす笑いながら首を傾げた。一応淑やかそうにしていた表の顔は完全に剥がれ落ちて、頭は良さそうだけれど、同時に抜け目のなさそうな密偵としての顔を覗かせる。
 どこもかしこも小づくりで、顔のパーツのひとつひとつがバランスよく配置されているメルディさんは、かなりの美人といってよかった。でも、全体をまとう空気がどこか不穏だ。口許は笑っていても瞳は笑っておらず、神獣のように感情がないわけではないけれど、底のほうにこちらを見極めようとする冷静で客観的な光が居座っている。
「……よく、あなたのような怪しさ満載の人が神ノ宮に入り込めましたね」
 わたしは少し呆れて言った。
 手回しよく王ノ宮が連絡係を寄越してくれたのはありがたいけれど、メルディさんは、明らかに他の侍女の人たちとは雰囲気が違う。侍女の採用には、それなりに厳しい審査があるはずなのになあ。神官たちの目は、どれもこれも揃って節穴なんだろうか。
「いやですね守護さま、人聞きの悪い。神官様たちの前では、この気配を消して、ちゃあんとしおらしくしておりましたよ。でも、守護さまの前ではね、あんまり周りの侍女と同化しすぎて、気づかれなくても困るし。これで気づかなかったら、まあその程度のお方だということで、しばらく黙っていようとも思っていたんですけど」
 メルディさんは可愛らしくコロコロ笑いながらあざといことを言った。わあ、胡散臭い……
「カイラック王に言われて来たんですよね? 大神官さんは、このことを」
「もちろんご存じじゃありません。守護さまと王ノ宮との使いっ走りとしてのお役目とは別に、この機会に神ノ宮の内部をこっそり調査せよとの命も受けておりますのでね。あ、そのことはご内密に」
 目を細め、しらじらしく唇に人差し指を当てる。わたしは軽く肩を竦めるだけにした。
「どうぞ、ご自由に」
「守護さまはそう仰るだろう、と、カイラック王も仰せでしたよ。よろしいんですかね? 守護さまのこともあれこれ嗅ぎまわって王ノ宮に伝えるかもしれないのに」
「嗅ぎまわられて困るようなことは、あまりないんです」
「へえ……」
 わたしの答えに、メルディさんはちょっと意外そうに目をぱちぱちさせてから、片方の口角を上げた。
「神獣のことも?」
「なるべく関わらないほうがいい、とは忠告しておきます」
 あの生き物に関わると、多分、ロクなことにはならない。
 メルディさんはそれを聞いて、ふふふと笑った。
「守護さまはなかなか面白いお方のようですね。私、自分の仕事でこんなに楽しくなったのははじめてです」
「そんなに張りきらなくていいです。何をしてもいいですが、ミーシアさんに迷惑をかけるようなことだけはしないでください」
「あの、人がいい、というところしか取り柄のなさそうな侍女ですね。はっきり申し上げて、あの人よりも私のほうが、よっぽど有能な侍女として働けると思いますよ。守護さまは、ずいぶんあの侍女のことを大事にしておられるようですけど」
「余計なことも言わなくていいです。ミーシアさんを蔑ろにするような言動をとると、ものすごく怒る人がいますよ」
「護衛官の兄、ってやつですね」
 どうやら、ここに入り込む前に、すでにある程度は調べてあったらしい。この分だと、トウイのこともハリスさんのことも、一通りは調査済みなのだろう。
「入ってすぐ守護人つきの侍女になるということで、不審を抱かれたりしませんか」
「そこは上手いことやりますので、ご心配なく。私が採用されたのも、階級が上のほうの、さる有力な伝手を辿った、ということになっておりますしね。そういうことでまあ、なんとなく納得されますでしょう。この世はなにごとも金とコネですよ」
 さる有力な伝手って、カイラック王だよね。階級が上のほう、もへったくれもない。
 とにかく、王ノ宮との連絡係としての仕事を全うしてくれるのなら、わたしに文句なんてあるはずがない。ひとつため息をついてから、軽く頭を下げる。
「じゃあ、これからよろしくお願いします。ですが最後に、ひとつだけ注意をしておきますと」
「はい?」
「神ノ宮の侍女さんは、ミーシアさん以外は、あんなにも堂々とわたしの目を見たりしません。神官さんたちや大神官さんに対しても同じことをすると、面倒なことになる可能性があります」
 メルディさんは目をぱちくりさせてから、
「おやまあ、神ノ宮ってのは、想像以上に歪んでますね」
 と、独り言のように呟いた。
「承知しました。今後気をつけます。……では、私もお返しにひとつ、守護さまにご注意申し上げましょう」
「はい?」
 問い返すと、メルディさんはにっこりした。
「実は私、こんな格好してますけど、男なんですよ。着替えの時などは、気をつけてくださいませね?」
「…………」
 ふふふと楽しそうに笑うメルディさんを、わたしはすぐさま私室から叩きだした。


          ***


 午前中の護衛についてくれたのはロウガさんだった。
 わたしは普段と同じように、ぶらぶらと散策するような歩き方で、主殿の建物の裏手に廻った。先日、最奥の間から一直線に向かったのとは違う場所だ。一口に、裏、といっても、なにしろ建物も敷地も広いので、神ノ宮には人目につかないところは探すまでもなく多くある。この広大さに比較すると、警護と護衛官の数は驚くほどに少ない。
 神ノ宮は、「他から攻撃されること」 をまったく念頭に置いていない、という事実が、これだけでも判ろうというものだ。
「ロウガさん、お聞きしてもいいでしょうか」
 建物から離れた地点まで来て、足を止めて振り返ると、ロウガさんはいつもの無表情を崩さずに、「は」 と返事をした。少しだけ目許がぴりりと引き締まったのは、今度は何を聞かれるんだ、と用心しているためだろう。ハリスさんのような不信感は見えないけれど、余計なことは話すまいという強い自戒と固い壁が、彼の全身に張り巡らされている。
 それが神ノ宮の護衛官としての正しい姿なのであろうけど、侍女同士の噂話から自分のことまでなんでも朗らかに話してくれるミーシアさんとは、兄妹なのにどうしてこうも違うんだろうなあ、とわたしは顔には出さずに感心した。
「この間、剣闘訓練を見学させてもらいましたけど」
 持ち出された話題が少し意外だったのか、ロウガさんの返事は一拍遅れた。
「はい」
「あの組み合わせは、どうやって決めるんでしょう」
「私と、あと護衛官と警護の数人が、話し合って決めます」
「決めるにあたってのルールはあるんですか」
「ルール、ですか?」
「年齢とか、年数とかで自動的に当てはめていくんですか。あるいはまったくそういうことに関係なく、くじ引きとかで決めていくんですか」
「いえ、それでは、強弱に偏りが出来て、訓練になりません。年齢・経験年数等は一切不問とし、組み合わせは、なるべく技量が同じような者同士が対するように決められます」
「でも、ハリスさんはわりと一瞬で勝っていたように見えましたけど」
「あの男のように、護衛官と警護の中でも突出した腕を持つ人間の場合は、そういうこともあり得ます」
「……そうですか」
 ハリスさんは、そんなに強いのか。どうしてそこまで剣の腕のある人が、あまりそれを使う道のなさそうな、神ノ宮の護衛官なんかをしているのだろう。
「ハリスさんは、あの中で一、二を争うほどの技量のある人だと」
「そうです」
「ロウガさんも任されている仕事の内容から考えて、ハリスさんよりも強いか、同程度くらいということですね」
「それは私の口からはなんとも申せませんが、毎日、鍛練を怠らないようにしております」
「じゃあ、トウイさんは?」
 その問いに、ロウガさんは一瞬詰まった。
「トウイさんも、十分強いんでしょう。そう見えました。でも、護衛官の中には、トウイさんより強い人はまだ数人いたようにも思いました。それでどうして、ロウガさん、ハリスさんと並んで、わたしの護衛官として任命されたんでしょう」
「……トウイが、なにか守護さまのお気に障るようなことをいたしましたか」
「質問をしているのはわたしです」
「…………」
 ロウガさんはわずかに視線を下に落としただけで、すぐに顔を上げた。その目には、いささかの迷いもなかった。
「守護人は、この神ノ宮で、神獣に次いで安全に過ごしていただかねばならないお方です。従って守護人の護衛には、お護りするための、あらゆる能力の高さが必要になります。格闘や武器の操り方に秀でているというのはもちろん大事ですが、それだけではいけません。他に、咄嗟の判断力、機転、瞬発力、体力、精神力。しかし、なにより必要なのは──」
「必要なのは?」
「強い意志と、他人のことを思いやれる性質です」
 ロウガさんはきっぱり言った。
「私は、護衛官というものは、それがいちばん備わっているべきだと思っています。人が人を護るのですから、必ず能力的に限界はある。事態が切羽詰まったその時に、自分のことしか考えないような人間では困ります。また、危害を加えてくるのが人であるかもしれない場合、敵の行動の先を読むという点で、人の心を理解しようとしない人間も、不適格であると考えます。トウイは剣の技量はまだハリスには及びませんが、そういったものを多く持ち合わせた人材である、と判断しました」
「……そうですか」
 今度は、わたしのほうが目を伏せる番だった。
 他人を思いやれることが出来る人──
 そう、それこそが、トウイの最大の長所であり、欠点だ。

 彼を死へと追いやる原因は、毎回すべて、そこに集約されている。

「──それで、ロウガさんはトウイさんを選んだ、と」
「そうです」
「トウイさんはまだ十代だし、経験もそれほど積んでいるわけじゃない。大抜擢だったわけですね」
「そう、です」
 ロウガさんの顔に、戸惑いが走る。
「守護人の護衛官というのは、この神ノ宮の中では重要な役目なんでしょう。守護人の世話係でさえ、名誉なことだと、ミーシアさんはしょっちゅう言ってくれています。きっと護衛官となったら、なおさらですね」
「それは……」
「だからもともと上席にいたロウガさん、それから剣の腕を誰もが認めているハリスさんが選ばれた。そこまではみんなも異論を挟まなかったでしょう。でもトウイさんの場合、選ばれたのは、そういう、『目には見えにくい理由』 だった。……それでは、その抜擢に、納得しない人もいたのでは?」
「…………」
 ロウガさんは口を結び、じっとわたしを見つめた。
「……守護さまが仰られているのは、つまり」
「つまり、護衛官さんたちの間で、いろいろと不満が溜まっているんじゃないか、ということです。そうだとして、それは一部なのか、全体なのか」
 そしてロウガさんは、そのことを把握しているのか。
 ロウガさんは、しばらくその場に突っ立って、何かを考えるような顔をしていたけれど、やがて小さなため息と共に答えを返した。

「──現在、トウイと一部の護衛官の間で、揉め事が起きているようなのは知っております」

 うん、やっぱり、ロウガさんは気づいていたんだな、とわたしは思った。
 トウイはどうやら隠しているつもりのようだけど、きっと腕の怪我のことだって知っているんだろう。ロウガさんだけでなく、ハリスさんも。
「一部なんですね?」
「ごく」
 ということは、揉めている相手は一人、多くても二、三人くらいか。
「理由はやっぱり、その不満ですか」
「土台にあるのは、そうでしょう。それが噴出するきっかけとなったのは、また別のことですが」
「剣闘訓練?」
「……そう、です」
 言いにくそうにロウガさんが口ごもる。だったら確定だ。タネルさんで、まず間違いない。
 訓練の勝敗だけで、あんな怪我を負わせるほどにこじれるものだろうか──トウイの腕の酷い腫れを見て、わたしが最も疑問に思ったのはそこだ。けれどもそれに、護衛官としての妬みや嫉みが上乗せされているとしたら、まだしも納得できる。
「私の考えが浅かったのです。監督不行き届きで、まことに申し訳ございません」
 ロウガさんに頭を下げられたが、わたしは黙っていた。謝ってほしかったわけではないし、どう返せばいいのかも判らない。
 自分よりも年少で、経験も浅い。でも力量は同じくらいの相手。そういう人間に守護人の護衛官という立場を掻っ攫っていかれて、タネルさんが悔しかったのも腹立たしかったのも想像できる。ロウガさんだってそうだろう。直接剣を交わすあの訓練で、タネルさんが自分の気持ちに何がしかの決着をつけられればと、ロウガさんは期待したのかもしれない。
 でも、そんなに簡単に、人の心は操れない。
 うねり、ひずみ、押し潰された感情が、ある時いきなり暴発するのを、止めることは難しい。
 わたしは、痛いほどそれをよく知っている。
「この問題には、いずれ近いうちに、きっちりと片をつけるつもりでおりました。守護さまにご忠告されるまで放置していたのは私の責任です。申し訳ありません」
「…………」
 早くなんとかしろ、というつもりで聞いたわけではないのだけど、ロウガさんはそう受け取ったらしい。
 でも、ロウガさんが間に入って収束してくれるのなら、それはそれでいいかもしれない。
 そう思って、わたしはやっぱり黙っていることにした。
 神ノ宮や王ノ宮を巻き込むような内容ではなく、こと問題が、護衛官同士の揉め事、ということになると、わたしはかえって迂闊に手も口も出せない。守護人が出張ると、穏便に片付くようなことが大きくなってしまい、もっと厄介な事態に発展する可能性がある。トウイはああいう性格だから、先輩護衛官に何をされても、決して表沙汰にはしようとはしないだろうし。
 ここはロウガさんに任せるのが最善、なのだろう。
 少し注意をしてもらって、タネルさんを宥めて、わだかまりを解消して……それで済めば、いちばんいい。
 いい、のだろうけれど。
「……戻ります」
「はい」
 胸の中に不安がくすぶったまま、わたしは足を動かした。
 ──もつれた感情の行き先は、果たしてどこに向かうのか。



 どうやらその不安が的中してしまったようだ、と気づいたのは、夜のこと。
 入浴を終えて、わたしが私室に戻ると、ベッドに立てかけておいた神獣の剣が消えていた。
 なるほど、と思うと同時に、深い息を吐き出す。

 こう来たか。


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