リライト・ライト・ラスト・トライ

第六章

2.蒼天



 剣を手元に引き寄せて、一気に振りきる。
 ──することは、それだけ。
 たったそれっぽっちのことで、ここにいる人間が一人死ぬ。命というものは、これほどまでに儚く、脆い。
 「人の命は地球よりも重い」 なんて、そんなこと、あるはずがなかった。だってそれは、こんなにもすぐに失われてしまうものなのだ。トウイの命も、サリナさんの命も、呆気ないほどに。
 まるで、わたしを嘲笑うみたいに。
 頑張っても頑張っても、何をどう努力しても、わたしが持っているあらゆるものと引き換えにしてもいいとさえ思っても、この世界の運命は、いつもトウイを奪い去っていく。
 数限りなく分岐していく道をどれだけ辿ったか判らないくらいなのに、それでもなお、トウイが確実に生きる未来が見つからない。
 神ノ宮が、王ノ宮が、名もなき民たちが、一体どれだけの人たちが、トウイの生を一方的に断ち切っていったことか。わたしは毎回、それを目の前で見せつけられてきた。そのたび、やめてと懇願して、泣いて、叫んで、地面に這いつくばって乞い願ったのに、誰もそれを聞き届けてはくれなかった。
 だったら、どうしてわたしに、この世界を愛することが出来るだろう?
 毎回毎回、扉を開けるそのたびごとに、わたしから大事なものを取り上げるこの世界を、どうして慈しむことなんて出来るだろう。守護人という肩書を押しつけるだけで、自覚もなしにいろんなものを蹂躙していく身勝手な人々に、どうして我慢し続けていなくてはいけないのだろう。
 わたしはもう立ち止まれない。前へと進んでいくしかない。その行く手を遮るものを強制的に排除して、なにが悪いというのか。
 剣を一振り、それだけでいい。

「守護さまっ!」

 柄を握り、ゆっくり手前に引いたところで、後ろから切迫した声があがった。
 ぴたりと動きを止める。
「…………」
 構えはそのまま、黙って目だけを後方に移動させた。それだけでは、わたしの真後ろにいる彼の顔は見えない。
 伝わってくるのは、ピリピリと張り詰めた空気、そして突き刺さるような視線。
「ひ……だ、誰か、今すぐ、しゅ、守護人を、止めよ……!」
 わたしの動きが止まったのを見て、声も出せずに縮こまっていた大神官が、喉から振り絞るようにして言葉を出した。顔は真っ青で汗だく、手といわず足といわず、ガタガタと全身の震えが止まらないでいる。自分ではその場から動くことも出来ないのに、この期に及んで誰かに 「命令」 をするのかと、わたしは乾いた心で皮肉に考えた。
 大神官の後ろで硬直していた数人の神官たちが、その声でようやく呪縛が解けたかのように、目をぱちぱちと瞬きして、互いの顔を見合わせた。今までは、ただ人形のように棒立ちになったきり、やはり動くことも出来なかったのだ。
「大神官を、助けますか?」
 彼らに向かって、わたしは剣を構えた姿勢のまま、問いかけた。口から出たのは、いつもと変わらない、抑揚を欠いた声だった。
 神官たちは、揃って反応に困っている。止めろと言われても、まず何をどうしていいのか、そんな基本的なことからして、判断がつかないらしかった。
 想定外の出来事に対処できない──この人たちは、いつもそうだ。
 神ノ宮の神官というのは、いわば名誉を得るための職。自尊心と格式だけは高いけれど、さしたる能力は必要とされない。本当に神を信奉するために仕えている人間なんて、ほとんどいない。
 彼らはみんな、上の階級の家に生まれて、いつも誰かに世話をされながら生きてきた。だから、自分のためにでも、人のためにでも、自らの頭や手足を使って行動することに慣れていない。
 祈りを捧げ、外界と距離を置き、周囲に見上げられ、自分たちは特別な存在なのだと信じながら、この静かで空虚な楽園で、朽ちたように生きていくことしか出来ない人たち。
 考えるのは 「自分」 のことだけ、という彼らに、一体、何を求めるのか。
「誰か! は、早く……早く、守護人から剣を取り上げよ!」
 大神官のその悲鳴のような声で、神官のうちの一人が、ためらうように、半歩前に出た。
 さらに少し剣を引き寄せ、わたしは淡々と問い続けた。
「わたしを止めますか? この大神官がいなくなれば、その次に大神官の地位に就くのは、あなたたちのうちの誰かかもしれないのに?」
 動きかけた神官の足が止まる。
 それを見た大神官の目が、飛び出してしまいそうなほど、いっぱいに見開かれた。
「このままだと、大神官はなかなか引退しそうにありませんよ。神ノ宮における最高責任者の座が空いて、世代交代となるのは、五年後ですか? 十年後ですか? それまでの期間、ひたすら大神官の機嫌を取り続けるのは大変でしょうね。……そうは思いませんか?」
 半歩だけ前に出ていた足が、床を滑るようにして、また元の位置に戻された。
 神官たちは全員、どこか気まずげに別の方向に視線をやって、大神官から目を逸らしている。
 大した 「忠誠心」 だ。
「なんと……お前たち、なんという……」
 大神官は、自分が神官たちからも見捨てられたことに気づいて、愕然とした表情になった。半開きになってわなわなと震える唇から、意味のない言葉ばかりが零れ落ちる。それでも神官は誰一人、彼と目を合わせようとしない。
「で、では、では……お前たち」
 次に、大神官の怯えきった視線が向けられたのは、わたしの後方だった。
 今もまだ跪いている、三人に。
「お、お前たち、私を」
「助けろと?」
 鞭のように素早く峻烈な勢いで出たわたしの反問に、大神官がびくっと跳ねるように身じろぎした。
「そんなことを命じても無駄ですよ」
「な……な、なぜ」
「なぜ? 忘れてしまったんですか、大神官」
 わたしは剣の柄をぐっと握り、今度は一言ずつ区切るようにして、ゆっくり言った。

「彼らは、さっき、あなたが解任(・・)したんでしょう?」

 大神官の顔が驚愕に占められる。
「……そ、それ、は」
「説明も聞かずに、まず護衛官としての任を解いてしまったのはあなたです。無断の外出、外泊、勝手な調査活動で、命令違反も甚だしい、すぐにでもこの神ノ宮から出て行かせると息巻いていたのはあなた自身だったじゃないですか。忘れてしまったんですか」
 首を傾げながら問いかけて、まじまじと顔を見る。汗と涙でびしょ濡れになった大神官は、「ひっ」 と息を吸い込むような小さい叫び声を洩らした。
「ここにいる三人はもう、神ノ宮の護衛官じゃない。従って、あなたの命令を聞く義務はない。あなたの命を護る必要もない」
 そうでしょう? と確認するように言うと、大神官は目を見開いたまま、首を横に振った。
 はじめは小刻みに、次第に、ぶんぶんと揺れが大きくなる。最後には、その行為だけが自分の命綱だとでも言うように、首がもげそうなほどに激しく振り続けた。
 ぱくぱくと口が動いている。
「わかりませんね。なんですか?」
「さ……さきほどの、は、とり、取り消します」
「先ほどのというと」
「か、解任の命令は、取り消します。そこにいる三名には、ま、また、神獣の守護人の護衛官としての任に、つ、就いてもらうことに」
「命令違反がどうのと言ってましたっけ」
「そ、その件については、ど、毒虫を排除した功績により、すべて不問といたします」
「では、今まで通り、ということで? 間違いありませんね?」
「ま、間違いありません」
「他の護衛官、警護、侍女の人たちにも咎を負わせるようなことは」
「い、一切、いたしません。だだ、大神官の名において、誓います……!」
 そこでわたしは顔を動かして、後ろを振り返った。真っ先に目が合ったのは、強張った表情で腰を上げかけていたトウイだったが、わたしはすぐにそこから隣のロウガさんに視線を移した。
 ロウガさんはわたしの顔を見ると、緊張しきった目許を少しだけ緩ませて、改めて跪いたまま頭を下げた。
「……守護さま、どうか、剣をお収めください」
 その言葉を聞いて、わたしは肩から力を抜いた。
 剣を持った手を下げ、鞘に収める。
 チン、という音と共に、大神官がへたへたとその場にくずおれるようにして倒れ、気を失った。


          ***


 大神官は、その後しばらく、自分の部屋に篭りっきりになった。
「ご気分がすぐれないということで、お食事も召し上がらないらしいです。お側に神官様たちも寄せつけられず、『誰も自分の近くに来るな』 と強い仰せで、侍女たちも困惑しております」
 と、翌朝になって、ミーシアさんが教えてくれた。
「それは大変ですね」
 わたしは朝食のスープを口に運びながら、適当な相槌を打った。そりゃあ、当分の間、神官たちの顔なんて見たくもないだろうなあ、と思うことはそれくらいだ。
「専属の医師にも診ていただいたそうなのですが、ご病気かどうかもはっきりしないようで」
「大神官さんも、けっこうなトシですしね」
「まあ、守護さま、そのようなこと……でも、心配ですね、本当に突然どうされたのでしょう」
 ミーシアさんは何も知らないらしく、本気で不思議がっているようだった。ふっくらした頬に手を当て、視線を遠くへと飛ばし、大神官の身を案じている。
「そうですね、どうしたんでしょうね、突然」
 きっと、あの場にいた誰も、昨日あったことについては固く口を噤んでいるのだろう。大神官を見殺しにしようとした神官たちに至っては、今頃自分の保身を考えて、ひたすら戦々恐々としているに違いない。
 わりと、どうでもいい。
「大神官様がそんな調子ですので、神ノ宮の予定もあれこれ崩れて、少々混乱しております。万一、守護さまにご不便がありましたら、申し訳ございません」
「不便なんてないです、ぜんぜん」
 これから神官の降格とか、側近の入れ替えとかがあるかもしれない。そうなったら侍女の人たちも余計な仕事が増えそうだ。
「ごちそうさま」
 カタンと音を立ててコップを置き、そう言った。ミーシアさんが食膳に目をやって、眉を下げる。
「……守護さまも、あまり召し上がらないようですが」
「ごめんなさい。今朝は、そんなにお腹が空いていなくて」
 皿の中には、料理のほとんど大半が手を付けられずに残ったままの状態になっている。食事の用意をしてくれた人には悪いなとは思うのだけど、どうしても無理だった。
「ですが、昨夜も、ほとんど何も」
「……ごめんなさい」
「ご気分でもお悪いのでしょうか。医師を呼びましょうか」
「必要ないです。元気ですよ」
「それでは、もう少し何か喉を通りやすそうなものをお持ちいたしましょうか」
「今は、いいです」
「でも──」
 ミーシアさんは、さっき大神官のことを口にした時よりももっと案じる色を深くした表情になって、椅子に座るわたしのすぐ間近で腰を低く落とした。
 下から、じっとわたしの顔を覗き込む。こちらに向けられる、真面目でひたむきな赤茶色の瞳を、ぼんやりと見返した。
「守護さま、ご自分でお気づきになっておられませんか。昨日からずっと、お顔の色がずいぶんお悪うございます」
「……そうですか?」
「お心が、宙を彷徨っていらっしゃるような目をされています」
「…………」
 口を結び、目を逸らす。
 そうなのだろうか。自分ではよく判らない。トウイにしろ、他の誰かにしろ、人が死ぬのを見るのは慣れているはずなのに。
「平気です。それよりもミーシアさん、メルディさんを呼んでもらえませんか」
 わたしがそう頼むと、ミーシアさんは口を閉じてまたさらに眉を下げた。
 心配してくれているのに他の侍女の名前を出して、気分を悪くさせてしまったかな。でも、どうしてもメルディさんとは顔を合わせて話をしなくちゃならない。その間、ミーシアさんは蚊帳の外に置くことになるから、何か上手い言い訳を考えて──
 そこまで思って、小さく息を洩らした。
 なんだか頭が重くて、思考がよく廻らない。ミーシアさんをこれ以上心配させたくない、メルディさんの話を聞いてこれからのことを考えなくちゃいけない、問題は何もまだ解決していないというのに。

 なにもかもが、やけに億劫だ。

「……守護さま、ただいま神ノ宮全体がバタバタしているため、メルディはあちこち手伝いに廻っております。すぐにお傍に参ることはできません」
 ミーシアさんが、言い聞かせるように穏やかな口調で言った。
「そうですか、じゃあ、それが終わったらここに」
「それまで、少しだけ、わたくしに守護さまのお時間をいただけませんか」
「は?」
 目を瞬いてミーシアさんの顔を見る。そんなことを言われたのははじめてだ。
「外はよいお天気です。守護さま、わたくしと一緒に、お散歩に参りましょう」
 ミーシアさんはそう言って、ね? というように優しく笑いかけた。


          ***


 私室のドアを開けると、そこに立っていたのはトウイだった。
 ミーシアさんと目を合わせ、かすかに頷く。ひょっとして、事前に二人で何かの打ち合わせでもしていたのかもしれない。よく判らないながら、ミーシアさんと一緒に歩くわたしの後ろを、トウイが何も言わず、いつものように一定の距離を保ってついてきた。
 言われるまま、建物の外に出て、ぐるりと廻るようにして裏手に向かう。いくらか歩を進めてから、ミーシアさんが足を止め、後ろを振り返った。
「──このあたり?」
「うん、そうだな。このあたり」
 と周囲を見回しながら答えたのはトウイだ。わたしはただ、二人のやり取りを突っ立って眺めていることしか出来なかった。
 ここに何があるというのか。ずっと以前、わたしがトウイからこの世界のことを聞いた場所、先日にはトウイに剣を持たせてわたしが休憩した場所だ。
 神ノ宮の端、まるで見捨てられたように人の手が行き届いていなくて、少々荒れた景色になっているこの場所は、殺風景な塀が近くに長く連なっているくらいで、他には何もない。
「ここは、守護さまのお気に入りの場所だと伺って」
「…………」
 そういうわけでは、ないのですが。
 別に気に入っているわけではないのだけど、神官たちがうろちょろする他のところよりは寛げて落ち着ける場所であることは違いないので、わたしはミーシアさんの言葉に特に反論はしなかった。私室に閉じこもっているよりは、ここにいたほうがいい、ってことかな。
「それならきっと、サリナもここがいいだろうと。あの子も、神官様たちのことは苦手にしていましたし、このあたりならその姿も見えないから安心するのではないか、とも思いまして」
 いきなり出てきたその名前に、ぴくっと肩が揺れた。

「……守護さま、こちらでは、人は死ぬと、『身は地に還り、心は空に還る』 と申します」

 ミーシアさんが、わたしの顔を見ながら、ゆるりとした口調で言う。
 聞き慣れないその言葉を、わたしは小さく暗誦するように繰り返した。
「身は地に還り──」
「心は空に還る、です。亡くなった人の身体は大地に埋められて、いずれ土に還っていきますが、心は肉体から解放されて、空へと還り、風や大気と一体になって生者たちを包むようにして守っていく、という考えなのです」
「風や、大気に……」
 周りに顔を巡らせてみたが、それらはもちろん、目には見えない。
「そしてまた、人の心は、肉体だけに宿るのではなく、その人が大事にしていた物、いつも身につけていた物の中にも宿る、と言われております。そう……わたくしですと、母から貰った首飾りなどに。トウイであれば、いつも肌身離さず持ち続けている剣などに」
 トウイに目をやると、彼は自分の剣の鞘を撫で、こくりと頷いた。
「ですから、たとえば、地崩れなどに飲み込まれ、遺体が見つからない、という場合には、代わりに、その人が大事にしていた何かを土に埋めるのです。そうやって、そこに宿った心を、空に還すために」
 亡くなった人の心が、風や大気に混じって安らげるように。
 そう言いながら、ミーシアさんが、スカートのポケットから四角く折り畳まれた布を取り出した。
 手の平に乗せて、ゆっくりと開く。

 布の中から出てきたのは、小さな耳飾りだった。

 もとの世界の、イヤリングのような形をしている。でも、ほとんど装飾のない、地味なくらいの品物だ。
 ──考えてみたけれど、サリナさんの耳にこういうものがついていたか、どうしても思い出せない。
 そんなことすら、気づかないまま、死なせてしまった。
「サリナの私物は、あの……どれも廃棄せよとのご命令だったのですが」
 ミーシアさんが言葉を濁す。わたしは視線を地面に落とした。
「これだけは、なんとか残せました。サリナが故郷から持ってきたもので、ずっと大事にしていたのに、捨てるのはあまりにもしのびません。かといって、ご両親に送って差し上げることもできませんし」
 サリナさんの故郷がどこなのか、聞いたとしても、教えてもらえないのだろう。
「守護さま」
 呼びかけられ、顔を上げた。ミーシアさんは、ほんのちょっとだけ、泣きそうな顔で微笑んでいた。
「一緒に、サリナの心を空に還してやってくださいまし」
「…………」
 わたしは、ミーシアさんの顔を見て、それからトウイの顔を見た。そしてその視線は、再び、下に向かった。
 ぼそりと答える。
「……ミーシアさんと、トウイさんだけで、還してあげたほうがいいと思います」
「いいえ、どうか、守護さまも。トウイも同じことを思っております。サリナもきっと、喜びます」
「そんな……」
 そんなわけがない。
 サリナさんは、深い絶望を抱いて死んだと、神獣が言っていた。
 わたしがしたことは、胸が悪くなるような偽善であったとも。
 これ以上、同じ偽善行為を重ねて、何になるというのだろう。
「守護さま」
 ミーシアさんがもう一度言って、わたしの手をぎゅっと握った。
「故人を悼むのは、死者に対してだけでなく、生者にとっても、必要なことなのです。安らかに眠れと祈るのは、亡くなった人のためばかりではなく、これから生きていかねばならない、わたくしたちのためでもあるのですよ」
「…………」
「守護さま、埋めるための穴を掘りましょう」
 トウイがそう言って膝を折り、次いでミーシアさんもしゃがみ込んだ。二人に促され、わたしも、のろのろと腰を下ろす。
 それから三人で、地面に深い穴を掘った。
 土は固くて掘り難く、時々、地中に埋まった石に邪魔をされて爪を削ったりもしたけれど、誰も何も言わずに、黙々と掘った。
 穴の中に、布に包まれた小さな耳飾りをそうっと沈めて、今度はゆっくりと土をかぶせていく。耳飾りは、あっという間に下に潜って見えなくなった。
 ほんのわずか土の盛り上がったその場所に、目を閉じて手を合わせる。トウイとミーシアさんが両の手の指を交互に組み合わせているのを見て、わたしもそうした。
 ……こちらの世界では、こうやって死者を弔うのだと、その時、はじめて知った。



 チチ、という鳥が囀る声がする。
 組み合わせていた手を解き、トウイが頭上の空を見上げて、呟いた。
「──残された者がいつまでも嘆き悲しんでいると、空に還った死者が心配して風になりきれず、白い鳥に姿を変えて様子を見に来るらしいですよ」
「白い鳥……」
 わたしも呟いて、目を上げたけれど、鳥の姿は見えない。
 広がっているのは、雲ひとつない、抜けるような青い空。
 死んだ人たちの心が、還っていくところ。
「…………」
 その空を見つめたまま、わたしは拳を強く握りしめた。
 ──決めた。

 もう、この神ノ宮という籠の中で、やって来る災厄を、ただじっと待ち続けるのは真っ平だ。


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