リライト・ライト・ラスト・トライ

第一章

3.依頼



 王ノ宮を退出し、神ノ宮へと戻った。
 守護人には、出来るだけ神獣の近く、ということで、最奥の間に通じる長い廊下の手前にある広い一室が、私室として献上されると決まっている。もちろんその部屋の前には、がっちりと警護が置かれて目を光らせることになる。「建物を守る」 警護とは違い、俺たち護衛官は 「人を守る」 のが役目なので、その部屋への立ち入りは許されていない。
 そこに案内する前に、大神官がこれからの予定などを説明した。
 とりあえず、神官たちとの正式な対面の儀式、豪華な宴や諸々の祝典祭典などは、すべて翌日以降に持ち越されることになったらしい。守護さまもお疲れのことでしょうから、と大神官は言ったが、実際、そうそうすぐには準備が整わない、という事情もあるのだろう。なにしろ数百年ぶりの守護人の来訪だ、神ノ宮でも王ノ宮でも大掛かりな式典が行われるだろうことは容易に予想がつく。
 少女はほとんど変わらない表情でそれを聞いて頷いていたが、これからはじまるそれらの慌ただしさを知れば、さすがにそんなに呑気に頷いてはいられないかもしれない。
 しばらくの間は、神ノ宮と王ノ宮とを行ったり来たりし、そのたびに煩わしい儀式をこなしていかなければならないのだ。俺たちは護衛としてそんな彼女にぴったりとついて廻るわけだが、それを想像しただけで少しゲッソリしてしまうくらいだった。
「それでは本日は、お食事をとってごゆっくりとお休みなされますよう。お口に合うかどうかは判りませんが、すぐに温かい料理を運ばせますので。……ああ、そう、その前に」
 そこでようやく、大神官は、俺たちの存在を思い出したようだ。くるっとこちらを振り向いた顔にも口調にも、もののついで、という感じが露骨に出ていた。

「ここにいるのは、これより、守護さまの身辺をお護りする者たちです。守護さまの御身に危険の及ばぬよう、常に近くに侍ることになります。お目障りのこともありましょうが、なにとぞ、お許しを。……では、お前たち、それぞれ名前を申し上げなさい」

 これが守護人に直接口をきける、最初の機会、ということだ。あるいはもしかすると、最後の機会、になるかもしれない。守護人がただの護衛にまったく興味を示さなければ、これ以降俺たちは 「姿はあれど見えず」 というだけの存在になる。いわば空気と同じだ。
 ま、偉い人たちなんて、おおむね、そんなもんだけどね。そういう扱いはこっちだって慣れているから、今さらそれに対して何かを思うことはない。名前だって、別に大神官から伝えてもらっても構わないけど、きっと大神官も俺たちの名前なんていちいち覚えちゃいないんだろう。
 しかしとにかく、そんなことはおくびにも出さず、俺たち三人は畏まった仕草でその場に跪き、少女に向かって頭を下げた。

「ロウガ・セム・ライドです」
「ハリス・ミド・シルフィです」
「トウイ・ウル・カディアです」

 護衛官としての経験の長いロウガさんから順番に、名を名乗っていく。
 返ってくるのは無視か、軽い一言か。どれにしろ、大神官のほうから合図なりなんなりがなければ俺たちは顔を上げられないので、その格好のままじっと待つしかない。
 少女はしばらく黙ってこちらを見下ろしているようだったが、少ししてから、
「……あのー」
 という、なんとなく間延びしたような声が頭上から降ってきた。
 ん?
「さっき、王ノ宮でも言ったと思いますけど、わたし、平伏されるのは好きじゃないんです。とりあえず、顔を上げてもらえませんか」
「…………」
 いや、そんなこと言われても。
 返答があったとしても、てっきり、「はい」 とか 「よろしく」 とかの短いものだと思っていた。こんな風に普通に話しかけられることは想定していなかったので、俺は床を見ながら困惑した。大体、顔を上げてもらえないか、と言われても、こっちは、はいじゃあ、と簡単に上げられるようなもんじゃない。
 少女はそのあたりを敏感に察したらしい。
「あ、わたしがそう言ってもダメなんですね。大神官さん、この人たちに、顔を上げるように言ってもらえますか」
「いやしかし……は、はい、承知しました。ではお前たち、顔を上げて、守護さまにお見せしなさい」
 大神官の命令で、俺たちはやっと顔を上げて少女を見た。
 彼女は一見、現れの間、謁見の間で見た時となんら変わりなかったが、声に今までの硬さがない分、表情もどこかゆったりと寛いでいるようだった。
 口調もややくだけて、こちらに向けられる眼差しには、まったく警戒心というものがない。なんだろう、この感じ。
 まるで、既知の友人と相対しているような。
 ……いや、もちろん、そんなのはただの気のせいなんだろうけど。
 少し小首を傾げてこちらを見返している彼女の左手には、王ノ宮からずっと離さず握っている、神獣の剣があった。
「あのー、だからってその格好で見上げられるのも落ち着かないっていうか……立ってもらえませんか? って、わたしじゃダメなのか、大神官さん、立つように言ってもらえます?」
「しかし守護さま、それでは……」
「わたし、王様の前で、『神ノ宮の人たちに、可能な限り普通に接してほしい』 って言いましたよね?」
 大神官がぎょっとしたように目を見開いた。
「え、いや、あれは神官に対してのもので……」
「もちろん違います。神ノ宮にいる人たちすべて、という意味です。護衛官の人たちも、警護の人たちも、侍女の人たちも、下働きの人たちもすべてです」
 しゃらっと返ってきた答えに、大神官が言葉に詰まる。俺も驚いた。少女の言っていた、「神ノ宮の人たち」 というのが、まさかそんな意味だったとは。
「ですが守護さま、そのようなことは許されるはずも」
「それが守護人を引き受ける条件のひとつ、とわたしは言ったはずですけど。王様も承知してくれましたよね?」
 カイラック王も、当然のごとくそれは 「神官のみ限定」 の話だと思っていただろうからな。まさか彼女が、下働きの人間までにも 「普通の対応」 を求めていたなんて、あの時、王の頭を掠りもしなかっただろう。
「し、しかし」
「あれ、無理なんですか? 王様と約束したのに……だからわたしも守護人を引き受けることにしたのに……そうですか、それを守ってもらえないんだったら、残念ながらこの話もなかったことに……」
 少女が目を伏せながらそんなことを呟いたので、大神官は真っ青になった。
 横を向いて、ふう、と悲しげなため息をつく彼女の仕草を、わざとらしい、と思うのは俺だけか。いや違うな、隣のハリスさん、また噴き出すのを堪えてる。
「しかし、しかしあの、守護さまとしての威厳を損なうようなことがあっては」
「わたしに威厳なんてもとからないから構いません。皆さんにとって、崇め奉るのはこれまでもこれからも神獣だけ、それでいいです。わたしはただの、」
 少女はそこで一旦言葉を切り、その先を呑み込んだ。束の間、目線が宙を流離う。
 剣を握る手に、力が込められた。
「……そういうわけで、わたしに気遣いは不要です。それが守護人を引き受ける条件のひとつだと、認識していてください。ロウガさんも、ハリスさんも、……トウイさん、も」
 喉の奥に、小さな魚の骨が刺さっているような言い方だった。
「何かあったら、直接わたしに言ってください。上官の人に伝えて、大神官さんを経由して、わたしの許に話が来る、なんてことをいちいちしていたら、時間がかかってしょうがない。そんな伝言ゲームをするのは御免です。それじゃあ、何かが起こった時に、間に合わない」
 彼女の言う、何か、とは、どんなことを指しているのだろう。その声音は、まだ幼さの残る外見とは裏腹に、ずいぶんと切実なものに聞こえた。
 俺はどういう顔をしていいものか迷って、ちらっとハリスさんの向こうのロウガさんを窺った。ロウガさんは難しい表情で、何かを考えているようだ。
 口を開きかけ、大神官のほうを向く。許しがない限り、そしてよほど事態が切迫していない限り、俺たちが直に守護人に話すことは禁じられているからだ。少女が、「伝言ゲーム」 と評するのは、あながち間違ってはいない。
 大神官は苦々しい顔つきをしていたが、いかにも渋々といった様子で、かすかに頷いた。まあそりゃ、「これを聞いてくれなきゃ守護人になるのはお断り」 と言い渡されているも同然だからな。神ノ宮の最高責任者としては、了承せざるを得ないだろう。
「──守護さま」
「立ってもらえますか?」
「それは、命令ですか?」
 少女の言葉にも、ロウガさんは頑として膝をついた姿勢を動かすことなく反問した。鋭い目線だけが上を向き、正面から少女のそれとぴったり合わせる。
「わたしはあなた方に命令できる立場にはありません。ですよね?」
「…………」
 確かにそうだ。俺たちに命令できるのは護衛官の上官、上位の神官、大神官。神獣の守護人が 「あれをしろ」 と命じたとしても、それに従うのは、これらの人間を通じて、俺たちにその命が下されてからのことになる。いくら守護人が望んでも、上官が伝えてこなければ、俺たちはそれに対して動くことはない。
 位の高い連中の中でも、そこを勘違いするやつは多いというのに、ここにいる異世界からの来訪者が、そういったことをきっちり理解しているのは不思議な話だった。
「だからこれは命令ではなく」
「命令ではなく?」
「可愛いおねだり、というやつです」
「…………」
 ロウガさんが口を噤んだ。ハリスさんが我慢ならなくなったらしく、ぷっと小さく噴き出す。俺はひたすら戸惑った。

 ものすごく真面目な顔してるけど。
 ……これ、冗談、だよな?

 ロウガさんは表情を崩さずに少女の顔を見つめた。再び大神官を目をやり、そこに嫌々ながらも 「諾」 のしるしが現れているのを見て取ってから、すっくと立ち上がった。
 俺とハリスさんもそれに従い、その場に立ち上がる。
 こうして見ると、少女は思っていたよりもずっと小柄だった。そんなに背の高いほうではない俺よりも、頭ひとつ分低い。
「では、守護さまのお心に沿うように。我らの対応にご不満あれば、いつなりと仰って下さい」
 ロウガさんは背が高くがっしりした体格をしているので、余計にすぐ前にいる少女が小さく見える。大人と子供、って感じだなあ。そういえば、守護人は何歳なんだろ。態度は大人びてるけど、実際はホントに子供なんだったりして。
「十六歳です。ここでは小さく見えるかもしれないけど、わたしの世界では標準身長ですよ」
 え。
 俺、今の疑問、口に出した?
 ロウガさんとハリスさんは、さらっと唐突に出された少女の言葉に少し怪訝な顔をしたが、俺は力いっぱいうろたえた。態度に出さないようにするのでやっとだ。なんで俺の心ばっかり読まれるんだよ!
「ちなみに、わたしに人の心を読む能力はありません」
 ウソだ!
「それではロウガさん、ハリスさん、トウイさん、これからよろしくお願いします。……あと、お願いついでに、もうひとつ、いいでしょうか」
 一人内心で慌てている俺を放置して、少女は真顔で付け加えた。

「──いざという時は、自分の命を優先する行動をとってください」

 俺たちは一斉に、は? という顔をしたと思う。しかし彼女はさらに続けて念を押した。
「忘れないでください。どうか、必ず」
 お願いです、と。
 そう言った時、どこかがひどく痛むような顔をしたけれど。
 ……なぜか、自分自身はそのことに気づいていないようだった。


          ***


 儀式やら行事やらに追いまくられた数日を経て、ようやく、神ノ宮と守護人にも、落ち着いた日々がやって来るようになった。
 日常が戻れば、特に予定のない時は、護衛官も三人全員が同時につく必要はない。俺とロウガさんとハリスさんは、それぞれ交代で一人ずつ任務に就くことになった。
 大神官が認めた用事のない限り、守護人は神ノ宮から出られないため、少女は一日をこの中で過ごすことになる。神ノ宮の内部に危険などはそうそうあるはずもないので、護衛は一人で充分だ。
 ──と思っていたが、甘かった。
 大人しく私室にこもっていればいいものを、少女はとにかく、神ノ宮のあちこちを見て廻りたがったからである。
 最奥の間以外は出入り自由とはいえ、さっさと足を動かしてどんどん先に行かれると、ついていくのも一苦労だ。行き会う神官や侍女たちが、いきなり現れた守護人に一様に仰天しても、まったくお構いなしですたすたと廊下を闊歩していく。
 神ノ宮は、端から端まで歩くと、一日では足りないと言われるくらいに広大だ。俺だって、建物の中はいざ知らず、敷地内のすべてを完全に把握しているわけじゃない。目を離して守護人を迷子にでもさせたらと思うと相当ヒヤヒヤものなのに、少女の足取りはいつも、知り尽くした場所を歩くように、迷いがなかった。

 ただ、時々、奇妙なこともあった。
 たとえば、廊下が二手に分かれていて、一方は行き止まり、一方はその先へ、という場合。
 少女は、当たり前のように左に曲がろうとする。考えもしない、訊ねもしない。いかにも判っている、という態度で。
 それを見て、仕方ないので俺は後ろから控えめに声をかける。
「守護さま、そちらは行き止まりです」
 そうすると、彼女はきょとんとした表情で、俺を振り返るのだ。
 さも、言われている意味が判らない、というように。
「こっちですか?」
 左の廊下を指で指し示して確認する。
「はい、行き止まりです。進まれても何もありません」
「へえ……」
 そして左と右の廊下を見比べて、首を傾げたりする。なんだかその様子は、いつの間にそんなことになっちゃったのかな? と不思議がっているようにも見える。俺が知っている限り、ずっとその道は行き止まりなのに。
 それから何事かをぶつぶつ口の中で呟いて、うんと頷くと、また納得したように右の廊下を進みはじめる。
 そんなことがたまにあったが、俺にはその意味も理由も、まったく判らなかった。

 一体、なんのために彼女は神ノ宮をうろつき回っているのだろう。物珍しさからにしては、その顔に好奇の表情は見られない。どちらかといえば、厳しいくらいの視線を隅々に投げつけている。
 何かを用心するみたいに。
 少女は、カイラック王に言った通り、神ノ宮の中では簡素な衣服しか身につけなかった。布一枚で出来た上衣と、脛とくるぶしが覗く短めの下衣。街の人たちが着ているようなもの、といえば確かにそうだが、それは女性が着るものではなくて、男の子供が着るようなものだった。確かに丈夫で手軽だが、神獣に仕える人間がまとうようなものではない。大神官をはじめ神官はみな大反対だったが、やっぱり上手いこと言いくるめて、ゴリ押ししてしまったらしい。
 そして腰には、神獣の剣。
 そういう格好をして、こうやって歩き回っていると、果たしてどちらがどちらの護衛をしているんだか、わかりゃしない。俺はやれやれと息を吐きだして、先へと進んでいくその後ろ姿を追う。
 最近ではそれが、常態化しつつあった。



 ──とはいえ、守護人には、これといって特別にやることというものがあまりない、というのも事実なのだ。
 朝、昼、夕、最奥の間に行って、神獣と目通りする。
 絶対にしなければならないことといえば、これだけ。
 その目通りだって、ほんのわずかな時間で、入ったと思えばすぐ出てくるような、あっさりとしたものだ。こんなのでいいのか? と俺でさえ心配になってくる。少女は必ずと言っていいほど、最奥の間から出てくると、眉を寄せた不機嫌そうな顔をしているのでなおさらだ。神獣と守護人の関係とはどういうものなのか、俺には想像もつかないが、あまり良好なものであるとは思えない。
 だが、大神官はすこぶる上機嫌で、「さすが守護さま。神獣は守護さまの訪れをことのほかお喜びでいらっしゃる」 などと持ち上げているので、どうやら神獣の心証は悪くないらしい。そう言われるたび、少女がものすごく苦いものを呑み込んだような顔をするのが今ひとつ解せないが。
 最奥の間に行くのも本当はイヤらしくて、彼女はしょっちゅうその時間を忘れたふりでやり過ごそうとした。もちろん神官たちがそれを許すはずもない。それで俺たち護衛官に、「時間が来たら、絶対にお連れ申せ」 と強い調子の命令が下されたりするわけだ。
 ロウガさんもハリスさんもその役目を難なくこなしているらしいんだけど、俺はそれがちょっと苦手だった。別に抵抗はされないが、「最奥の──」 と言いかけただけで、毎回、少女ががっくりと肩を落とすからだ。いつも飄々として、式典と行事の連続でもなんの不平も零さず、疲れた顔も見せなかっただけに、なんだか気の毒になってくる。
 よっぽど行きたくないんだろうなあ。
 というのはよく判るが、かといって命令には逆らえない。懐から、掌の中にすっぽり収まる丸い時計を出して確認し、俺はそっと前を歩く少女に声をかけた。
「守護さま、最奥の間に」
 あ、眉が下がった。
「はい……行きます」
 神ノ宮の建物内を元気よく歩いていた足が、途端に勢いがなくなる。
 打って変ったような悄然としたその歩き方に、つい、気持ちが動いてしまった。
 周囲を素早く見回す。幸い、誰もいない。守護人本人が自由に話していいと言ってるんだから、少しくらいはいいよな。明らかに護衛官としての分を越えているので、こんなことがロウガさんにバレたら、大目玉をくらうことは確実だけど。
 近くに寄り、俺はこっそりと声を抑えて問いかけた。
「──そんなに、気が進まれませんか」
「進まないというか、むしろ積極的に後ろ向きダッシュです」
「…………」
 少女はごく自然に返事を返してきた。言っていることの意味はよく判らないが、要するにイヤだということらしい。はあーと息を吐きだしている様子は、本気で憂鬱そうだった。普段滅多に感情を外に出さないので、そういう顔をすると、年相応に幼く見える。
 だからだろう。俺は、ここにいるのが守護人であることを一瞬忘れ、わずかに目元を和ませた。
「あの白い廊下は、確かに少し気後れしますね」
「神獣の部屋も、どこもかしこも気持ち悪いくらい真っ白ですよ。あんな所に長い時間いたら、頭がおかしくなりそうです」
「真っ白……」
 一点の汚れもない、輝く白だけで染められた部屋を頭に浮かべて、ちょっとぞっとした。それは確かに、気後れどころじゃない。反射で目もチカチカしそうだ。もしかしたら、すぐにあの部屋から出てくるのは、そういう理由なのかな。
 そんな部屋でも、神獣は平気なんだろうか。というか逆に、そういう所でないといけないのかもしれない。なにしろ神だから。

 ──神、か。

「神獣って……」
 本当にいるんですか、と言いかけて慌てて呑み込む。さすがにそこまで不敬なことは口には出せない。大体、神獣がいなかったら、そもそもこの神ノ宮の存在意義がなくなる。
 でも、見たことがないしなあ。空想上の生物でなければ、ちゃんと実体があるってことなんだろうけど、その姿は絵にも描かれることがないからさっぱり判らない。
 獣の形をしているとしたら、やっぱり四足なんだろうか。妖獣の中には二本足で歩くのもいるらしいけど、妖獣と神獣を同列に並べたら駄目なんだろうし。あるいは鳥のように翼を持っているのかな。
 あれこれと頭の中で想像を膨らませていると、少女が前を向いて歩きながら、ぼそっと言った。
「神獣っていうのはですね」
「え、はい」
 どきっとする。俺、また心を読まれた?

「──この世でいちばん、けったくそわるい生き物です」

「…………」
 俺はその台詞を聞かなかったことにした。
 ……異世界から来た守護人の言うことは、どこからどこまでが冗談なのか、まったく判別がつかない。


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