短編2

ゆめや(3)




 時間の経過がひどく曖昧だった。眠り続ける祥子の傍で、何をすることもなくぼんやりとその顔を眺めているだけだったのに、気がついたらもう夜になっていた。
 代わる代わる祥子の様子を見に来る医者や看護師に、何度も声を掛けられたような気もするのだが、何を聞いて、自分がなんて答えたのかも覚えていない。自分と外界の間は、薄っすらとした膜みたいなもので隔てられていて、貴之はその中から妙に冷静に、外の人々の動きをただ見ているだけみたいだった。
 昨日と同じように、面会時間が終わりましたのでと肩を叩かれて、もうそんな時間かとのろのろと椅子から立ち上がる。よほど酷い顔色をしているのを見かねたのか、看護師が叱咤するようにぽんぽんと貴之の背中を叩いた。
「そんな調子じゃあ、奥さんが心配になっちゃいますよ。もっとしゃんとしてくださいね」
「…………」
 ああ、そうだよなと貴之は思う。今の自分は、ただの腑抜けだ。こんなんじゃ、祥子にもっと呆れられてしまう。
 病院を出て、暗くなった夜空を見上げたら、空腹に気がついた。そういえば、昨日からほとんど食べていない。やたらと喉が渇いて水分だけは摂っていたからいいようなものの、それすらしなかったら、今頃は自分もあの病院で点滴を受けなければいけない羽目になっていたかもしれない。
 携帯を開いて電源を入れたら、会社から何度も着信が入っていた。しばらく出社できそうにないことを連絡しておかないといけないな、と思いつつ、ボタンを押すのも億劫で、結局また携帯を閉じる。しなければならない業務のことも、提出期限の迫った書類のことも、今は何も考えたくなかった。
 ふらふらと家に辿り着き、何かを食べようかと思っても、作る気力が湧いてこない。
 祥子は几帳面で片付け好きだから、キッチンの棚も冷蔵庫もきちんと整理されていて、どこに何があるかは一目瞭然だ。貴之も祥子と結婚する前は一人暮らしをしていたから、多少は自炊も出来る。でも、祥子がこまごまと刻んだり煮たりしてストックしておいた、幾つかのタッパーに入った食材には、とても手をつける気にはなれなかった。
 結局、パンと牛乳を無理矢理のように胃の中に流し込んで、倒れるようにベッドに潜り込んだ。
(──情けない)
 と自分でも思った。妻が入院した途端、自分の生活が廻らなくなって途方に暮れる中年男なんかを、貴之はかなり馬鹿にしていたのに。今まで祥子が病気で寝込んだりしても、貴之は彼女の面倒を見ながら、自分のことくらいちゃんと自分で出来ていた。あなたはしっかりしてるから安心して病気になれる、と祥子だって笑って褒めてくれたほどだったのに。
 貴之の場合、依存していたのは生活の手ではなく、心のほうだった。ずっと隣にいるものだと信じきっていた祥子が離れて──これからも永遠に離れたままかもしれないと思っただけで、日常を送ることがこんなにも困難になるくらい。
 闇の中で、静かに目を閉じる。
 夜が明けて朝が来ても、この闇とはこれからも付き合っていかなきゃならないのか、と貴之は溶けかかる意識の中で思った。



          ***


「……けっこう、子供みたいなお人ですな」
 ぼそぼと小さな声で話す声が聞こえた。
 この変な関西弁もどき、聞いたことがあるなと貴之は思う。視界はまだ真っ暗で、何も見えない。なんだこれ、目が開かないのかな。
「いつもは、もっと格好いいのよ。大人だし、優しいし、テキパキしてるし。身なりにも気を遣ってて、スーツ姿なんかそりゃもう似合うし。三十越えても、まだ頭も薄くなってないし、お腹も出てないんだから。そんなには」
「…………」
 最後の一言が余計だ、とムッとしかけてから、心臓が飛び出しそうになって跳ね起きた。いや、跳ね起きたという表現はおかしいか。とにかく暗闇の中でうずくまっていた意識が、ぱっと明確になったのだ。
 そこはやっぱり闇だったが、ほんのりと明るくもあった。

 ──全身に、淡く白い光をまとっている女が、貴之のすぐ目の前に立ってこちらを覗き込んでいた。

「あ、起きた」
「いや、本体は眠ってますんで、その言い方は正確ではないんですけどな」
 彼女は嬉しそうに言ったが、その隣にちんまりと立つユメ屋が、どうでもいいツッコミを入れている。
「しょう……こ?」
 貴之の声は覚束ない。祥子が自分の前に現われたということよりも、そこにいるその姿が、貴之の想像をはるかに超えたものであったからだ。
「そうよ、貴さん」
 いつも彼女が貴之に対してするその呼び方も、笑みを含んだようなその声も、確かに祥子のものだった。けれど、外観が見慣れていたものとはかなり違う。いや、違うというか、違いはしないのだが、「今」 のそれとは明らかに違うのだ。
 祥子は、ふふ、と楽しそうに笑って、ワンピースの裾をちょっと持ち上げ、くるりと一回りした。ああそうか、光っているように見えたのは、ワンピースの眩しいほどの白さのせいか。
 覚えてる、この真っ白なワンピース。学生だった貴之が、決死の思いで祥子にプロポーズした時に、彼女が着ていた服だから。
「いいでしょう、これ。ユメ屋さんがね、この世界では、どんな見た目にもなれますよって言うから」
 十年前の、まだ大学生だった頃の、あどけなさの残る若い娘の顔をした祥子が、そう言ってまた笑った。
 その笑顔には、なんの屈託もない。少なくとも、貴之にはそんな風に見えて、戸惑うしかなかった。彼女が貴之の前に姿を見せるとしたら、その顔には嘆きと怒りがあって、口からは夫を恨んで責める言葉が出てくるものとばかり思っていたのに。
 貴之の浮気に気がついていた、というのは、ただの思い過ごしであったのか。
 でも……じゃあ、どうして。
「──知ってた」
 疑問を声にする前に、祥子が静かに言った。

「貴さんに、他に好きな女の人が出来たこと、知ってたよ」

「…………」
 さらりと言われた言葉に、頭と身体が凍りつく。真っ直ぐこちらを向く祥子の瞳には、貴之が思っていたような蔑みの色はなかったけれど、深く暗い悲しみの光が底の方で瞬いていた。
 その口許に、さっきまでの笑みはもうない。
 ちがう、と言いかけ、唇を噛んだ。この状況で何を言おうと、それはただの言い訳だ。貴之がどれほど祥子を愛していて必要としていることを訴えるのも、許しを求めるのも、独りよがりな押し付けに過ぎない。
「……しょ」
 言葉の代わりに彼女に向かって伸ばした手は、そこに行き着く手前で、バチンと何かに弾かれた。
 驚いて、もう一度手を出したが同様だ。目に見えない壁が、貴之と祥子の間を遮断している。
「あんさんのいる場所と、祥子さんのいる場所は、同一のものではありません。同じ空間に隣り合わせにあるというだけのことで、交わることは出来ませんのや」
 淡々と説明するユメ屋の声が、ひどく無情なものに聞こえた。顔を見て、話をすることは出来ても、触れることは出来ないということか。
 こんなにも、すぐ間近にいるのに。
 表情を歪めた貴之を見て、祥子が少し苦笑するように目元を和ませた。この顔、喧嘩をしたあとで、貴之に仲直りしようと手を差し伸べてくる時の顔だ。しょうがないなと、貴之をいつも許してしまう、お人好しな顔。
 こんな時まで。
「……気がついたのは、本当に最近のことだったのよね」
 娘の顔をした祥子が口を開く。そうだった、昔の祥子も、時々こんな風に、遠いところを見るような、寂しそうな目をしていた。貴之と結婚してからはあまり見なくなっていたのに、彼女にまたこんな目をさせるようなことをしたのは自分だ。
「でも、気がついても、どうしていいか判らなかった。傷ついたし、悲しかったし、苦しかったけど、あんまりその感情が大きくて、逆にぼーんやりしちゃってね。貴さんとお別れしなくちゃいけないのかなあと思ったら、もう怖くて怖くて、考えるのもイヤになって、なんとなく、今までと同じように生活していたら、怖いものがそのうち消えるんじゃないかっていう気がしたの。要するに逃げてたのよね、馬鹿みたいだけど。子供の時のように、目をつぶって耳を塞いでいれば、そのうち怖いものはなくなってるんじゃないかって」
 馬鹿みたいよね、と、祥子はぽつりと繰り返した。
「…………」
 貴之は何も言えずにうな垂れる。きっと、それほどまでに、貴之の浮気は祥子にとってダメージが大きすぎたのだろう。その状態を通り過ぎたら、今度は怒りとか、話し合いや言い争いへと向かう建設的な思考が頭にのぼってきたのだろうけれど、祥子はそこにいく前に、事故に遭ってしまったのだ。
「正直言って、車に撥ねられた時のことは、あんまり覚えてない」
 と、祥子は首を傾げた。考え事に気をとられ、ぼうっとしていたのかもしれない。そうだとしたら、あの事故も、元をただせば貴之のせいだったわけだ。
「どんっていう衝撃がきてね、火花が散って、感覚が遠ざかっていった。それで、ああ、わたし、死んじゃうのかなあって思った。……思ったら、じゃあよかった、って、却って安心したの」
「……安心?」
 弱々しい声で問い返す。貴之の裏切りを目の当たりにするより、死んだ方がマシだった、ということなのか。
 しかし返ってきた言葉は、貴之が思ってもいないものだった。
「──わたしは、貴さんに家族を作ってあげられなかったから」
 そう言って、祥子は目を伏せる。意味が判らなくて、貴之は困惑したまま立ち尽くした。
「わたしの両親は死んじゃって、この世にいないけど、貴さんのご両親は、生きていても、いないのとほとんど同じだったでしょう」
「…………」
 貴之が子供の頃から仲の悪かった両親は、彼が中学に入学するのと同時に離婚した。貴之は父に引き取られたが、父は間もなく他の女と再婚した。その義理の母とは折り合いが悪く、貴之は大学に合格すると、逃げるようにして居場所のない実家から飛び出したのだった。
 実の母ももう再婚して、貴之に連絡してくることもない。祥子と挙げたささやかな結婚式に、父が顔を出すことはなかった。今ではもうすっかり音信不通の状態になっている。
 生死の違いはあれど、親なし、という境遇において、祥子も貴之も、似たようなものだったのだ。
「だからわたし、どうしても、貴さんに家族を作ってあげたかった。親から愛されることはなくても、自分が親として、子供を愛することが出来たらいいなと思ってた。……けど、わたしには、子供は出来なかった」
 この数年、祥子はそのことでずっと悩んで苦しんでいたんだろうか。貴之は、何も判っていなかった。子供を欲しがるのは、てっきり彼女が子供好きだからだとばかり思っていた。
 貴之は、ちっとも祥子のことを理解してやることが出来ていなかった。十年以上も、近くにいながら。
「わたしがいなくなって、他の人と一緒になれば、その時こそ子供が生まれて、貴さんに新しい家族が出来るかもしれない。だったら、それでいいんじゃないかと思ったの。だから」
 と、祥子は顔を上げ、真っ直ぐに貴之を見据えた。泣き笑いのような表情が、胸に痛かった。
「……貴さんには会わずに、このまま行こうと思ってた」

 自分のことは忘れて、新しい女性を妻にして、そして家族を作れるように。

 けどやっぱり、見ていられなくて会いに来ちゃったわ、と申し訳なさそうに祥子が呟いた。
「祥子──」
 喉の奥が詰まって、声が上手に出せない。どうして、どうしてともどかしい怒りが湧き上がる。
 どうして、そんな悲しいことを言うんだよ。車に撥ねられて、痛くて、つらくて、苦しかっただろうに、そんな時でさえ、俺に救いを求めることもしなかったのか。全身を打って、血を流し、腕がおかしな方向に曲がった、そんな状態で、これでよかったんだと、安心しただって? そんな──そんなことがあっていいもんか。
 たまらずに手を出したが、やっぱり見えない壁にぶつかって、祥子に触れることは叶わなかった。腹立たしくて、力任せに拳を打ちつける。
「祥子、俺の家族はお前だろ?!」
 貴之が大声で叫ぶように言うと、祥子が無言でこちらを見返した。大学生の時の姿をした祥子。彼女は、どうして貴之との最後の逢瀬に、この姿を選んだんだろう。
 この頃が、祥子にとって、いちばん幸せだったから?
 そんなこと、ないだろう。ないはずだ。
「結婚してから、喧嘩だってたくさんしたけど、それでも俺たち、毎日を幸せに暮らしてきただろ? 朝起きて、おはようって言い合って、飯食って、夜には隣同士で眠って。平凡で、これといって変化のない日々だったけど、同じものを見て、話して、笑って、一緒に苦労もしてさ。何回も泣かせたけど、それでも仲直りしたら、また何もなかったようにテレビ見て笑い転げたりしたじゃないか。なあ、そういうのを、『家族』 っていうんだろ。俺たちそうやって、少しずつ少しずつ、ちいさな幸せってもんを積み重ねてきたんだろ。違うか?」
 まだ学生だった貴之が、将来の見通しも立たないまま祥子に結婚を申し込んだのは、彼女を他の誰にも渡したくないと思ったからだ。
 自分と同じ時間を共有するのは、この先もずっと祥子でなければイヤだと思ったからだ。
 その気持ちは、今も変わってない。
「それをぶち壊すようなことをした俺は、ホントに馬鹿で最低だった」
 ごめん、と謝った。こんな言葉では足りないことは承知だが、他になんと言っていいのか判らない。
 それから、真っ直ぐに祥子と顔を合わせる。腹に力を入れて、はっきりとした強い口調で言った。
「──戻ってきてくれ、祥子」
 一度崩れたものを立て直すのは、容易なことではないだろう。いくら謝っても、後悔しても、反省しても、してしまったことをなかったことにするのは出来ない。
 でも、今の貴之はもう、いちばん大事なものが何かを知っている。これから、お互いにすべきこと、しなければいけないことも判っている。それを二度と、間違えたりはしない。
 十年前、祥子に手を差し出した時と同じ、祈りにも似た願いで、再び手を伸ばす。祥子にも、その頃と変わらない気持ちと意志が、少しでも残っているのなら──どうか。
 どうか、失われた信頼をもう一度築く機会が欲しい。
 お互いをもっとよく判り合うための、時間が欲しい。
「子供のことも、きちんと話し合って、どうするか決めよう。お互いに納得できるような結論が出せるように、何度も考えて悩んで話をしよう。もっと前から、そうするべきだった。俺たち、夫婦なんだから」
 今度こそ、違う方向に逸れていかないように、二人で人生を歩いていきたいから。
「…………」
 祥子は口を噤んでじっと貴之を見つめていた。
 その顔は、いつの間にか、学生の頃のものではなく、現在の祥子に戻っている。昔よりも少し頬がふっくらとして、華やかさが薄れた分落ち着いた、三十代の女性の顔だ。今までの、貴之と過ごした日々で得たたくさんのものが刻み込まれた顔だから、その目尻のちいさな皺だって、貴之は愛しいと思う。
 目線を落とした彼女が向いたのは、ユメ屋のほうだった。
「言うときますけど、私はそこまで関知しません」
 素知らぬ顔をして、ユメ屋は言った。
「私は別に、『こっち』 から 『あっち』 へ移動すること自体には、関わっていませんのや。私はあくまでユメを売るのが商売なもんですから。しあわせなユメをお売りして、見返りに、その人の中に溜まっている 『悪夢』 をいただくんです」
 そう言って、一瞬、ユメ屋は口の両端を吊り上げた。その時ばかりは、このコビトが少し不気味に見えた。
「生きていると、いろんな悪夢が溜まっていきますからな。不幸、不信、不安、怒りに憎悪。そういったものが、私らにとって、それはそれは美味なんです。私らはそういうものをお客はんから頂いて、お客はんはスッキリとした状態でしあわせなユメを見ながら、『あっち』 へと旅立たれる。双方共に、いい話ですやろ」
 悪夢を食べる──
 つまりこいつの正体は、獏だったわけか。
 なんだか、貴之が知識として知っているものとは大分違う形をしているが。
「普通はあまり選べるもんではありませんけど、祥子さんの場合、目が醒めないのは、本人の 『醒めたくない』 と思う気持ちが大きいからなんでしょうな。ですからどっちに行くかは、まあ──祥子さんの意思次第、ということですわ」
「…………」
 祥子は口を閉じたまま考えている。祥子、という貴之の切羽詰った声に、ちらりと目をやってから、再びユメ屋へと視線を戻した。
 ユメ屋が、祥子と顔を合わせ、にこ、と笑う。今度のは、さっきのような不気味なものではなかった。
「──このユメは、祥子さんにとって、しあわせでしたかな?」
 それを聞いて、祥子はようやく、ゆっくりとだが口許を綻ばせた。
 目を細め、やわらかく微笑む。
 そうね、と小さく言った。
「うん、とてもね。とても……幸せな 『夢』 だった」
 呟くような声で続けて、貴之の方に顔を向ける。
「でも、『現実』 は、見ているだけ、待っているだけでは駄目なのよね、きっと」
 そして、にっこりと笑った。
「……幸せになる、努力をしていかなければね」




          ***


 祥子が昏睡状態から醒めて、回復するまで、しばらく時間がかかった。
 貴之は毎日毎日、会社の帰りに病院に顔を出し、せっせと妻の世話を焼いた。もういいわよと祥子が呆れるくらい熱心に。
 もちろん、浮気の件は綺麗に片をつけ、祥子には土下座して詫びを入れた。二度としませんという誓約書を書き、祥子が退院したら二人で温泉旅行に出かける約束を取りつけるところまでは貴之が言い出したことだったのだが、なぜかその他に、いつの間にやらブランドのバッグも買うことになっていた。祥子は案外ちゃっかりしている。
 それだけで信頼がすべて取り戻せるとは思ってはいないが、これから時間を掛けて、少しずつまた新しく築いていくしかないのだろう。自由に時を戻すことの出来ない現実世界は厳しいが、愛する者と触れ合うことすら出来ない夢の世界よりは居心地がいい。
 ──そして貴之と祥子は、休みの日には、二人で病院の庭に出て、温かい日差しの下で手を繋ぎながら、たくさんの話をする。
 今までのことや、これからのこと。子供のことも、まだまだ結論は出ていないが、思っていることをどんどん口に出して話し合っている。言い争いになることもないではないが、それでも最後にはちゃんと仲直りする。仲直りの手を差し出すのは、貴之は祥子ほど上手ではないけれど。
 ……でもそうやって、失敗しながらでも、少しずつ。
 いろんなものを分かち合い、支え合い、補い合って、いつかもっとしっかりとした 「家族」 へ成長するといいな、と貴之は思う。
 そうして、ずっと先の未来、しわくちゃの老人になって、貴之が今度あのちょっと憎たらしいユメ屋に会ったなら、こう言ってやるんだ。
 自信たっぷりに笑ってさ。

 しあわせなユメなんか要らないよ。
 俺は、今まで生きてきた現実が、ずっとずっと幸せだったからね──

Fin.



BACK   短編部屋TOP   INDEX

Copyright (c) はな  All rights reserved.