短編13

オマモリ様(4)




 マトモに顔のど真ん中にバスケットボールを当てられてひっくり返った羽生に、俺は慌てて駆け寄った。
「お、おい、大丈夫か?!」
 顔を覗き込むと、丸くて真っ赤な痕がくっきりと付いている。普通に廊下を歩いていて、飛んできたボールがぶつかる、というバカバカしい場面に遭遇したのもはじめてだが、こんなにも見事にボールの痕を付けて目を廻している人間、というのもはじめて見た。お前はどこまでマンガ的なやつなんだ。
 しかしとにかく、この状況で笑う気にもなれない。「いひゃい……」 とこんな時までマヌケな言葉を発しているから意識はあるようだが、立ち上がるのは難しいらしい羽生の腕を掴み、上半身を持ち上げて、自分の背中に負ぶう形にする。
 よっ、と勢いをつけて立ち上がると、周りにいた女子たちから、きゃあ、という声が上がった。そんな場合か。そういう目で見られたら、こっちまで意識しそうになるからやめて欲しい。これはただの荷物。そう思おう。
「……黒瀬くん……」
 歩き出すと同時に、背中から弱々しい声で呼びかけられて心臓が跳ねる。言っておくが、俺の手がお前の太腿のあたりにあるのは、決して下心があってのことじゃないからな! 怪我人を運ぶための、やむを得ない措置だからな!
「世界がぐるぐるするよー……」
「じゃあ目をつぶってろ」
「せっかくこんな高いところから景色が見られるのに、もったいないじゃない?」
「日本語を使っているならもっと意味の通じることを話せ」
「鼻が痛い……鼻血が出そう」
「こらっ、俺の制服で拭くな!」
 くだらない会話を交わしながら、足を速める。ただでさえ頭のネジが一本緩んでいそうな女なのに、これ以上おかしくなったらどうするんだ、と気が気じゃない。肩の上に、小さな人間が乗っていることすら、この時の俺の頭にはなかった。
 その着物姿の女の形をした何かが、唇を強く真一文字に引き結んでいたことも。
 ただ、羽生の口から出る言葉がやっぱりどこか的外れなことに少し呆れ、背中にぴったりと密着した身体から伝わる温かさに少し安心し、俺に負ぶさっていることで短めのスカートから下着が見えたりしないだろうかと少し不安になり、触れている肌の柔らかさに大いに胸を上擦らせて、俺は一直線に保健室目指して廊下を突き進んだ。


 保健室で一応の手当てをしてもらった後、ちょっと安静にして様子を見ましょう、ということで、羽生はベッドに寝かされた。
 この間とは逆の恰好で、羽生が横たわるベッドの脇に丸椅子を置いて腰かける。ボールの丸い痕はやや薄れてきたが、それでも全体的に赤くなり、余計に痛々しく感じられた。
「こうして保健室のベッドに寝ていると、病弱な少女っていう可憐なイメージでいいよねえ」
 白い天井に向かって目線をやりながら、羽生がうっとりした顔でアホなことを言った。
「鼻に脱脂綿を詰めた滑稽な姿で、なにを言ってるんだお前は」
「だって鼻血が出るんだもん。わたし、小っちゃい頃から身体が丈夫なのが取り柄で、保健室には、転んだ時やぶつかった時くらいしかお世話になったことがなかったんだー」
「今もまさにそうじゃないか」
「こうしてベッドに寝かされたのがはじめて、っていう話でしょー。黒瀬くんはねえ、ロマンってものが判ってないよ」
「ロマンくらいは理解しているが、お前の言ってることはロマンでもなんでもない」
 腕を組んで冷たく言い放つ俺に、羽生は、もうー、と膨れっ面になってから、顔を向けた。
「わたし、もう大丈夫だから、教室に戻っていいよ? 五時間目、そろそろはじまっちゃうでしょ?」
「…………」
 俺はむっつりして口を噤む。昼休みは、残りあと数分だ。
「……俺は優秀だからな。少しくらい授業に遅れたところで、別に問題なんてないからいいんだよ」
「へえー、黒瀬くんって、頭いいんだ?」
 きょとんとした顔で驚かれて、イラッとする。同じクラスでありながら、そんなことも知らないお前が特殊なのだと自覚して欲しい。
「可奈子、まだ目が廻るか」
 と、これまでずっと黙っていたオマモリ様が口を開いて問いかけた。
 羽生が横になっているため、肩に乗ることが出来ないその小さな存在は、今は羽生の顔のすぐそばの枕元に立っている。
「んー、少し」
「では目を閉じていろ。そのほうが楽だろう」
「んー」
 オマモリ様に言われて、羽生が素直に目を閉じた。ここに男がいるというのに、なんという無防備さなんだ。子供っぽいのか、俺を異性としてまったく意識していないのか。どちらにしろ、ムカムカする。鼻に脱脂綿を詰めたこのマヌケな寝姿を、写メに撮ってバラ撒いてやろうかな。
「羽生、お前な……」
「…………」
「頭が悪いのはともかく、女子高校生として、その無警戒さは致命的だと思わないのか」
「…………」
「新聞の社会面を見れば、最近の物騒な世情くらいはすぐに目に入るだろう。その中で生きていくにあたり、最低限身につけるべきものは何かといえばだな」
「静かにしろ。可奈子はもう寝た」
「は?!」
 オマモリ様に言われて見てみれば、本当に羽生はかーと寝息を立てて、太平楽に眠り込んでいた。目を閉じてから数秒しか経っていない。
 どこまでアホなんだお前は!
 べちんとおでこをはたいてやりたい衝動に駆られたが、ぶるぶると震える拳を握りしめて、なんとか怒りを抑えつけた。相手は怪我人、俺はクール。耐えろ。
 ふー……と長い息を吐きだすことによって、ようやく自制心を取り戻す。腕だけでなく足も組み、椅子に座ったまま、すやすや眠る羽生を見下ろし、溜め息をつく。ホントになんなんだ、こいつは。
 オマモリ様は、そんな俺にはまったく頓着しないで、寝ている羽生の顔をじっと見つめ続けていた。寄り添うようにして枕元に立っているその姿は、まるで眠る子供を見守る母親のようでもある。

 ──そんな風に見えるのは、オマモリ様の顔に、はっきりと羽生を案じる色が現れていたためなのかもしれない。
 そして、今の俺が不思議なほど彼女に恐怖心を覚えないのも、そこに理由があるのかもしれない。

「……なあ」
 気がついたら、勝手に口が動いていた。
 オマモリ様は反応しない。こちらを見もしない。話しかけているのは自分なのに、そのことに妙にほっとして、俺は言葉を続けた。
「たとえば、ここで俺が、寝ている羽生に悪さをしようとしたらどうするんだ?」
 養護教諭は、羽生の手当てをした後で、すぐに戻ってくるからと、保健室を出て行った。真面目な副会長を全面的に信用しているのもあるだろうし、まさかこの状況でぐうぐう眠り込む女子生徒がいるとは思いもしなかったのだろう。どいつもこいつも迂闊なやつばっかりだ。
 しんとした保健室に、俺と羽生の二人きり。少なくとも、オマモリ様という存在が見えないやつらからしたら、そうなっている。
「どう、とは?」
 オマモリ様が、やっぱり俺を見ないまま平坦に問い返す。
「たとえば、よく判らない未知の力で俺を弾き飛ばす、とかさ。あたりにある物がフワッと浮かんで俺に向かってくる、とか。そういうことはないのか?」
「私がそうすると?」
「だから、羽生はこんな風に安心しきって眠ってるんじゃないのか」
「バカバカしい」
 そう言って、やっとオマモリ様がこちらを向いた。その顔にあるのは、羽生に向けていたのとはまったく違う無表情だ。感情のまるでこもらない醒めた瞳に、ひやりとしたものが背中を駆け抜ける。
 そうか、オマモリ様にとっては、羽生だけが 「特別」 なんだ。それ以外の人間は、完全に関心の外にあるんだな。
「私にそんな力があるものか。そんなことが出来るのなら、そもそも可奈子はこんなところで寝ていない」
 だろうなあ。俺も、それは薄々気づいてたんだ。オマモリ様に、本当にその名の通り 「守る」 力があったなら、羽生がボールをぶつけられて倒れる、なんてこともなかったはず。
 あの時、オマモリ様が出来たのは、「危ない」 と忠告することだけだった。
「私に、誰かを守ることなど出来るわけがない。ここに在るのは、ただの思念の残り滓なのだから」
 思念の残り滓?
 俺がその言葉の意味を問う前に、オマモリ様はまたふいっと顔を羽生のほうに戻した。
 長い黒髪で覆われた後ろ頭と、半分透き通っているような背中だけをこちらに向ける。
 だから、どんな表情で彼女が眠る少女を見ているのか、俺には判らなかった。

「……ずっと、長いこと、一人だった」

 ぽつりと、静かな声が耳に届く。
「待って、待って、待って、とうとうこんな浅ましい姿に成り果てた。長く時が過ぎて、もうすでに、何を待っていたかも思い出せない。ただ、暗いところで、たった一人、ひたすら身を縮めて、待ち続けていたことを覚えているだけだ」
 自分にも判らない 「何か」 を待ち続けるだけの日々。
 暗いところで。たった一人で。ひたすら身を縮めて。
 待って。
 待って。
 待って。
「──ある日、気がついたら、小さな女の子が、一生懸命私に向かって話しかけていた。毎日毎日、甘い菓子や、飲み物や、どこかで摘んだ野の花を持って、『来たよー』 と笑いかけていた。時々、自分が嫌いで食べ残したものを、代わりに食べてくれと持ってくることもあれば、捕まえたと大威張りで潰れた蛙を持ってくることもあったが」
 春、夏、冬。決まった時期のほんのいっとき。
 必ず、女の子は、祠へとやって来た。
 晴れの日も、雨の子も、雪の日も。暑くても、寒くても。
 明るい光と、澄んだ空気をまとって、姿を見せた。
「いつの間にか、私はその子が来るのを待つようになった。それより前、何かを待っていた時は、ひどく寂しくて悲しい気持ちしかなかったが、それとは違う。その子を待つ時は、いつも温かい気持ちになった。とても、心地よかった。時間が経つにつれ、少しずつ成長していく姿を見るのが楽しみだった。女の子はいつでもにこにこ笑って、いろんなことを話してくれた」
 自分のこと。友達のこと。学校のこと。今日あったこと。明日したいこと。
 たくさんのこと。
「私はそれを聞くだけだ。私が聞いているということを、その子に伝えることも出来なかった。返事だって、しようもなかった。他愛ない話を、ずっと楽しそうに聞かせてくれたのに。……せめて、『そうか』 と答えてやれれば、どんなにいいだろうと思った」
「──じゃ、その願いが叶ったわけだ」
 俺は言ったが、オマモリ様の後ろ姿はぴくとも動かない。表情も判らないのに、なぜ、その背中が悲しげに見えるんだろう。
「話は出来るようになった。ずっと近くにもいられる。可奈子はやっぱりいろんなことを私に話してくれるし、私はそれに返事をしてやれる。でも、それだけだ」

 守ってはやれない。

 オマモリ様は、ぽとりと言葉を落とすようにそう呟いて、それきり黙り込んでしまった。
 小さな手を動かし、眠る羽生の髪にそっと触れ──ようとしたけれど、細くて軽そうな髪の毛は、ただの一本も動くことはなかった。
 オマモリ様には、実体がない。だから、この現実世界にあるものすべてに触れることは叶わないのだと、俺は気づいた。よくよく注意して見てみれば、オマモリ様は地に足をつけているわけではなく、ふんわりと浮いているだけなのだ。
「私には、なんの力もない」
 そう言って、オマモリ様は、落胆したようにかすかな溜め息を漏らした。


          ***


 その翌日、女の子に告白された。
 なんだ唐突だな、と思うだろう。俺も思った。羽生とオマモリ様のことで少しぼんやりしていたため、「ちょっといいですか」 と呼ばれて何も考えずについていったら、いきなり告白タイムに入ってしまったのである。こういうのははじめてではないが、まったく心の準備をしていない時だったので、少々まごついた。
「……え、と」
 言葉を濁しながら、目の前の女の子を見る。一年生の学年バッジをしているが、さすがにそこまでは俺の暗記の範囲外だ。名前も顔もさっぱり判らない。
「あの、私、入学した時から黒瀬先輩に憧れてて」
「…………」
 その言葉を聞いた途端、すう、と気持ちが降下していく。
 入学した時から、ねえ。
 ってことは、同じ中学だったとか、そういうこともないんだな。
 ありがちなことだが、どうしても、やれやれという気分になってしまうのは致し方ない。
「俺と君、個人的に話したこと、あったっけ?」
「いえ、ないです。ないですけど、黒瀬先輩のことは、ずっと好きで、見てました。いつでも冷静で、落ち着いていて、なんでも出来て、カッコよくてすごいなあって」
「…………」
 俺は思わず口から零れそうになる溜め息を押し殺した。
 ──そりゃあさ。
 そりゃ、俺だって男だからね。女の子と付き合いたいし、彼女を作ってデートとかしたい。もっと言えば、それより先のこともイロイロしたい。高校二年にもなると、それなりに男女交際のあれこれを経験しているやつもいて、「黒瀬はもうこんなこととっくに卒業してるよなー」 などと言われて腸が煮えくり返ることもある。卒業どころか入学もしてないよ、悪かったな。
 ……でも、だからって、俺が作り上げた架空の 「黒瀬玲二」 という男を好きだという女の子と付き合いたいとは、思わない。
 勝手な話だよな。そういう面しか見せないのは俺のほう。嘘で塗り固めた外ヅラだけを出しておいて、それに憧れる女の子はイヤだとほざくのは、なんという矛盾で、なんという身勝手さなのかと、自分でも呆れる。

 けど、俺にその像を求めてきたのは、周りの連中だったじゃないか。

「今までずっと遠くから見てるだけだったのに、どうしてまた、突然行動に出たのかな」
 静かに訊ねると、女の子は顔を赤くして、もじもじと制服のスカートを握った。
「……あの、昨日、先輩が倒れた女の子をおんぶして保健室に連れて行くのを見て」
 なるほど。普段、女子に対しても素っ気ない態度しか取らない俺が、羽生を背負っている場面を見て、これは黙っていると取られるんじゃないかと焦った──と、そういうことか。
 判りやすい。同じ女なのに、どうしてこうも羽生とは違うんだ。
「先輩、優しいところもあるんだって、私、感激しちゃったんです。それであの、もっと近くにいられたらいいなあって思って」
「……優しいところ」
 あの場にいたのが俺じゃなくても、誰だって、保健室に運ぶか、教師を呼ぶくらいはしたと思う。それは人間としての普通の行為であって、決して 「優しい」 と形容されるようなことじゃない。
 それとも俺って、目の前で、女の子がボールに当たってぶっ倒れても、そのまま放置して立ち去りそうな人間だと思われてたのかな。実際にそうしていたら、やっぱり黒瀬君よねと納得されていたのかな。
 それが、みんなの考える、「クール」 ってことなのか。
「…………」
 ちょっと考えてから、眼鏡を外した。
 その顔で、まっすぐ見返すと、相手はどぎまぎしたように目線を逸らした。
「──あのさ、君、お盆にちゃんと先祖の墓参りに行った?」
「は?」
 俺の突然の問いかけに、女の子はぽかんとした。無理もない。
「俺、けっこう霊感があるほうなんだけどね、君の肩の上に女が乗ってるのが見える。多分、悪い霊じゃないと思うから、何が望みなのかじっくり聞いてあげたらいいんじゃないかな」
「……は、あ?」
 女の子は俺が視線を向けている自分の右肩を見て、それから再び俺を見た。ぽかんとした顔つきが、徐々に気味が悪そうな不安げなものに覆われていく。この場合、「気味が悪い」 と思ってるのは、自分の肩の上に乗っているものか、それとも俺か。この感じだと、多分後者だな。
 そりゃそうか。肩に何かが乗ってる、なんて話、普通すんなり信じるわけがない。当たり前だ。
 虚像にしか興味のない人間なら、なおさら、「そこにあるもの」 を、ありのままの形で受け入れるのは難しいだろう。
「で、なんだっけ。俺と?」
 一歩前へ足を踏み出すと、女の子がずずっと後ずさった。
「い、いえ、あの、もういいです」
「そう? でも」
「すみませんでした! やっぱり私には黒瀬先輩は不釣り合いでした! 見ているだけで満足です!」
 慌てたように叫ぶその目には、ありありと俺に対する失望が見える。今頃、この子の中では、完璧なクール眼鏡の黒瀬玲二が、ガラガラと音を立てて崩れてるんだろうなあ。実は電波系だったのか、って。
 こんな人だとは思わなかった、ガッカリだ。
 そう思われたくなくて、俺は今まで 「自分」 というものを作ってきた。もう今となっては、すっかり自身の一部にもなっているくらいに念入りに。
 でもやっぱり、どこかでずっと無理をしてきたっていうのも、本当なんだ。俺に対して 「こうじゃない」 という目を向けられるのが、嫌だったから。
 笑うたび、はしゃぐたび、弱いところを見せるたび、落胆したような目を向けられる。それは、少しずつ、少しずつ、俺を傷つけ、神経を削っていった。ここにいる自分は、そんなにも 「ダメ」 なのかと。
 素のままの自分を、否定されるのは嫌だった。
 だけど。
「じゃあ、失礼します!」
 女の子がくるっと身を翻して、逃げるようにその場から走り去る。
 小さくなっていくその後ろ姿を目で追いながら、俺は奇妙に爽快な、せいせいとした気分を味わっていた。
 ……なんだ。
 意外と、平気なもんだな。



 教室に戻ると、入口のところでちょうど廊下に出ようとする羽生と、ばったり顔を合わせた。
 昨日の今日で、まだちょっと鼻が赤い。肩には、相変わらず無表情のオマモリ様が乗っている。
「あ、黒井くん」
「くーろーせー。お前そろそろワザと言ってるよな?」
 頬っぺたの肉をぎゅむっと摘んで引っ張ってやる。おっ、けっこう柔軟なんだな。よく伸びる。
「いひゃい! いひゃいよ、くろせくん!」
「やっぱり覚えてるんじゃないか」
「ちょっとした冗談なのにー」
 手の平で頬をさすりながら羽生が不満げに言う。こいつの冗談は、どこまでが冗談なのかまったく判らない。
「わたし、今からトイレに行ってくるねー」
「そんなことはわざわざ報告しなくてもいい。ていうか男にそんなことを言うな」
「黒瀬くんも急いで行かないと授業がはじまっちゃうよ?」
「なに当然のように俺がトイレに行くと決めつけてんだお前。俺のようなクールな男はトイレになど行かない」
「えっ、クールな男? どこ?」
「キョロキョロするな」
 もう一度頬っぺたを引っ張ると、羽生がいひゃい! と悲鳴を上げた。
 あまりにもバカっぽい顔をするので、つい噴き出してしまう。
 痛いよーひどいよーと文句を言いながら楽しそうに羽生が笑って、肩に乗っているオマモリ様も、ゆるりと微笑んだ。

 ……ああ、うん、ちょっと判る。すごく不本意だが。
 オマモリ様の気持ちが、ちょっとだけ判る。

 羽生の近くは、心地いい。



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