はるあらし

1.出会い



 ……いつの間にか、見合いをすることになっていた。

 おれがそれを知ったのは、あろうことか、その当日の朝のことだ。起きた途端、母親に、「まあ哲秋さん、まだそんな格好で」 と眉を寄せて言われ、は? と問い返すという間抜けっぷり。いや、でも、しょうがないだろう? だっておれは、その時まで、外出するということさえ聞かされていなかったのだから。
「今日は、何か予定でもありましたっけ?」
 いくら休日といえど、パジャマ姿で家の中をうろつく、ということは家風として許されていないため、一応ラフな私服に着替えてはいるものの、起き抜けの頭は寝癖が残ったままだ。まだ髭もあたっていなければ、洗顔さえも済ませていない。そんな話を聞いたかな、と首を捻りつつ訊ねると、母はますます呆れたような顔をした。
「何か予定でも、じゃありませんよ、呑気なこと仰って。あなたも早くきちんと身だしなみを整えてくださいな。先方をお待たせしては大変じゃありませんか」
 アラ大変、アラ大変、と口の中で呟きながら、母親はパタパタとスリッパの音を響かせてリビングを行ったり来たりしている。よくよく気づいてみれば、彼女が身につけている着物は、えらく気合いの入った訪問着である。
「どこに行くんです?」
 という質問に、母が口にしたのは都心にある一流ホテルの名前だった。父親がそこの支配人と懇意の仲なので、仕事でもプライベートでも、うちの家族はそのホテルをよく利用する。
「そこでお茶の会でもあるんですか」
 まだはっきりと目の覚めきっていないおれは、半分欠伸を噛み殺し、テーブルの上に置いてある新聞を広げて言った。そこまで車で送っていけってことか、と新聞の文字を目で追いながら考える。運転手の坂田さん、今日は休みなのかな。
「何がお茶の会ですよ。さ、哲秋さん、こちらに着替えて頂戴ね」
 と母に言われて視線をやると、その手にあるのはおれのスーツだった。しかも、普段会社に着ていくものではなく、つい最近オーダーで仕上がったばかりの新品だ。
「…………」
 そういやこれ、母親にうるさく言われて、無理やりのように作らされたんだったなあ……と思い出す。この時点でようやく、おれの心の中には嫌な予感がむくむくと湧き上がってきた。
 なんとなく、その先へと思考を向けるのが怖くなり、母親が持っているスーツから逃げるように顔をめぐらせると、リビングのソファで寛いでいた妹の愛美と、ちょうど目が合った。妹は、今の今までこちらを興味深そうに観察していたらしいのに、一瞬視線が合うと、すぐさまそれを膝の上に載っている雑誌へと向けた。
 え、なに、そのわざとらしい目の逸らし方。
「……えーと、ちょっと、コーヒーもらえるかな」
 いかん、落ち着こう、と思ったおれは、母親の後ろに控えていたスミさんに声をかけた。
 母がこの家に嫁いでくるのと同時にお手伝いさんとして雇われて、去年六十になった温和なスミさんは、おれたち兄妹を実の子供のように可愛がってくれている。他にも、昼の間の通いのお手伝いさんが数人いるのだが、スミさんだけは彼女らとは別格だ。
 いつもなら、おれが起きるとすぐに手際よく朝食を差し出してくるその彼女が、今は妙に困ったような顔で突っ立っているだけだった。あの、やめてくれる? その同情に満ち満ちたような目を向けてくるの。
「ぼっちゃん、残念ながら、コーヒーをお飲みになる時間は……」
「そうですよ、なに言ってるの。こんなギリギリの時間に起きてきて、そんな余裕はありません。遅刻でもしたらどうするんです。さあ、早く着替えていらっしゃいな」
「遅刻って……」
 さあさあ、と母親から強引にスーツを押しつけられ、とりあえずそれを受け取ったものの、おれは困惑から抜け出せない。
「これを着ていかないといけないんですか」
「当然ですよ。そのために作ったんでしょうに」
 なに、当然て。そのため、って何のためなのだ。これを作る時は、「普通、季節が変わる前に二着や三着は新調するものですよ」 とか言って、ほほほと笑ってなかったか。そういや、いつもは職人任せなのに、その時はやたらと生地の質とか色とか見栄えの良さにこだわって口出ししてきていたな。
「お母さんを車で送っていくだけなんじゃ」
「まあ、何を仰ってるの、哲秋さん。車はいつもどおり、坂田さんが運転してくれますよ」
「お母さんの用事に、おれも付き合えということですか」
「まあ、何を仰ってるの、哲秋さん。わたしの用事なんかじゃありません、主役はあなたです」
「…………」
 ここで我慢の限界を迎えたらしく、愛美がぶぶーっと勢いよく噴き出した。
 おれは黙ったまま、ソファの肘置き部分に顔を突っ伏し、ひいひいと笑い続ける妹を見て、ついでに、その向こうにある大きな張り出し窓を見た。窓から見えるのは、明るい日差しに照らされた広い庭だ。季節柄、現在花が咲いているのは梅や椿である。もうしばらくすると、数本植えてある立派な桜の木が見事に花を咲かせて、それはもう美しい薄紅色に彩られる。

 ──「桜庭」 という、この家の名に相応しく。

「ちょっと庭を散歩してきていいですかね」
「逃がしませんよ、哲秋さん」
 スーツを持ったまま、窓へと歩み寄ろうとしたおれは、がっちりと洋服の裾を母親に掴まれて逃亡を阻まれた。
 良家の子女として育ったわりに、ここぞという時の母親は非常に行動が敏速で的確だ。高価な訪問着で包まれた身体は、おれを離さないままびくとも動かない。しっかりと据わった目つきは、まるで獲物を捕らえた鷹みたいだった。
「どこに行くつもりです。これからお見合いだというのに」
 やっぱりかーーー!!
「なんですか、見合いって!」
「一対一の男女が、結婚できるかどうかお互いを見極めるため、人を介してセッティングされた場のことをいうのです」
「誰が意味を聞きました! おれに見合いしろってことですか!」
「他にどなたがいるんです。残念ながらわたしには夫がおります」
「真面目な顔でそういうこと言うのやめてください! しかも、見合いって、今日、これから?!」
「当たり前でしょう。そのために、スーツもこうして新調して」
「肝心のおれが、今この時まで何も聞かされてないんですけど?!」
「言いませんでしたかしら」
「初耳です!」
「アラそうですか」
 母親はしゃらっとした顔でそう言った。ダメだこれ確信犯だ。さすがこの桜庭家で女主人として君臨しているだけあって、この厚顔さ、堂にいっている。
「見合いなんてしたくないといつも言ってるでしょう! 妻になる女性は自分で見つけます!」
「おや」
 ここで、ギラリと母親の目が光った。鷹から猛獣のそれに変わり、おれは思わず言葉を呑み込む。怖い。
「ご自分でお相手を見つけると?」
「そ、そうです」
「そう仰ってもう何年になるとお思いです? 哲秋さん、ご自分の年齢をご存じですか」
「まだ二十八……」
「もう、二十八、とおっしゃい。あと一年半もしたら三十になってしまうではないですか。三十にもなって! 桜庭家の息子が! 独身のまま! だなんて!」
 いちいち語尾に 「!」 をつけて、母は耐えられないというように額に手をやった。ちなみにもう一方の手は、ぎっちりと抜け目なく息子の服を掴んだままである。
「世間ではそういうのをニートと呼ぶのだとか」
「お母さん、ニートっていうのは仕事をしない人のことを言うんですよ」
 おれは母の誤用に訂正を入れたが、相手の耳にはちっとも入っていないらしかった。母にとって、「独身三十男」 というのは、ニートなみに世間に対して顔向けできないことであるらしい。
「そんなわけで、これ以上は待てません。なにがなんでも、三十になる前にはお嫁さんを見つけていただきますよ、哲秋さん。お見合い、という形をとるだけでも感謝なさい。その気になれば、わたしが見初めた女性と有無を言わさず結婚させることも出来るのですが?」
「脅迫じゃないですか!」
 母の目は完全に本気だった。ここでおれが逃げると、翌日には本当に、戸籍に見知らぬ女性の名が連ねられているのかもしれない。やりかねない。桜庭の名があれば、確かにそれも不可能ではないと考えると、背筋が冷えた。
「お兄さん、ここはもう諦めたほうがいいわよ」
 ずっと笑っていた愛美が、軽い調子で声をかけてくる。グルか、グルだな。お前、母親と結託してるだろう!
「いいじゃないの、一応 『お見合い』 なんだもん。お相手の女性が気に入らなければ、お断りすればいいんだし」
「そうですよ、男のくせにいつまでもグダグダ言うんじゃありません」
 鼻からふんと息を吐き、母親がぴしりと叱りつける。朝起きて、いきなり、さあこれから見合いだと申し渡されて、グダグダ言わないですんなり従う男が、一体この世にどれだけ存在しているだろう。理不尽な。
「もう──わかりましたよ」
 しかし、はあっと溜め息をついて、おれは反論を呑み込んで頷いた。母の理不尽は今にはじまったことではない。そして悲しいかな、子供の頃からの習性で、おれ自身、もうすでにそれを受け入れることに慣れきってしまっている。どうやったって、結局、最終的にはこちらが折れることになるのだ。
 そうだ、考えてみれば、「見合い」 なんだもんな、と自分を慰めるように妹の言葉を心の中で繰り返した。

 会ってから、断ればいいだけの話ではないか。


          ***


「菊里春音と申します」
 そう名乗って、淑やかに頭を下げたその女性を見て、おれはかなり困ってしまった。
 見合い相手の、ハルネさん。
 一言で言うと、彼女は美人だった。白を基調とした、ところどころ薄い紫色の花の柄が入る上品な振袖がよく似合っている。可憐な髪飾りを施してある後ろで結い上げた髪は黒々として、どこも染めているような形跡がない。控えめに入れられたチークや口紅がその美しさを際立たせているが、多分彼女の場合、たとえノーメイクでもほとんど問題はないだろう。伏せられた長い睫毛は自前のもののようで、目元にそっと影を作るさまは、なんとも見惚れてしまいそうなほどだった。
 楚々とした大和撫子、という感じを体現したような女性だな、とおれは思った。こういうのって、もはやこの時代、絶滅危惧種なんじゃないだろうか。
 美人だ、と感嘆するようには思ったが、特にそれ以上の興味を覚えたわけではない。いや、以前ならもっと興味を覚えたのかもしれないのだが、現在のおれはおそらく、どんなタイプの女性にも、さして関心を向ける気にはなれない。
 彼女の顔を見ながら、ぐるぐると頭の中で考え続けていたのは、こんな大人しそうな女性を、どうやったらあまり傷つけることなく断ることが出来るだろう、ということばかりだった。
「申しわけございません。本来、このような場では両親のどちらかが同席するものだと思うのですけれど、突然、父の具合が悪くなってしまって……母はその付き添いで、兄はどうしても抜けられない仕事がございまして」
 春音さんは恥ずかしそうに顔を下に向けながら、おれと母に向かって謝った。
 仲人役の中年女性はいるものの、本来彼女の親が座るべき隣の席はぽっかりと空いたままだ。見合いの場に女性一人で来るなんて、心細いだろうなあ、と気の毒に思うと同時に、隣にしっかり母親という保護者が付いている我が身を顧みて、非常に居心地が悪かった。
「そういう事情でしたら仕方ありませんよ。それより、お父様のお加減はどうなのかしら?」
 隣に座る母親の口調は少し尖っている。きっと、先方の父親も母親もいないこの状況を、自分たちが軽んじられているように思っているのだろう。普段、人から見上げられることに慣れきっている母のプライドは、エベレストよりも高い。可哀想に、春音さんは恥じ入って、ますます身を縮こまらせている。
「しばらく入院して休めば良くなるということです」
「それはよかったですね」
 母が口を開く前に、おれは素早く言葉を挟んだ。なるべく柔らかい調子で慮るように言ったら、春音さんはほっとしたように目を細めて小さく頷いた。どうしよう、なんか、罪悪感で胸がズキズキする。すみませんすみません、おれは偽善の塊です。
 しかし、春音さんに、なんの落ち度も非もあるわけではないのは明らかなのだ。むしろ、そんな状況であるにも関わらず、春音さんが見合いにやって来たのは、間違いなくこちら側の圧力があったからに決まっている。仲人おばさんの話によると、彼女の家は桜庭の系列の会社を経営しているのだそうで、社長である父親が倒れた今は、兄が代理でその仕事をしているらしい。そりゃもう、今頃はてんてこ舞いで、本来なら見合いどころではなかっただろう。なのに中止も延期も出来なかったのは、きっと、おれの母親が本日開催にこだわったせいだ。なんでって、日を延ばして、おれに逃げられたら困るから。
 そこのところは母親も多少は自覚しているのか、おれが春音さんに助け船を出した以降は、もう不快さを外に出そうとはしなかった。表面上、仲人おばさんを含めて、和やかな会話が続いていく。
 なんとか耐え忍んだその数十分を経て、ようやく、「お二人でホテルの庭でも散策なさったら?」 と、仲人おばさんが言ってくれた。やれやれ、とどっと疲労が押し寄せる。いや、本当に疲れるのは、この後なんだけど。
「そうですね。行きましょうか、春音さん。このホテルの庭は結構な広さがあって、小さいとはいえ、人工の滝や川までがあるんですよ」
「はい」
 おれが誘うと、春音さんは、幾分嬉しそうに返事をして立ち上がった。視界の端では、母親が鬼教官みたいな目でじっとおれと彼女とを交互に見比べている。
 だんだん、胃が痛くなってきた。


 ホテルの庭に出て、母親たちが居座るティールームからは見えない位置まで歩いてくると、さっきまでずっと固い表情で微笑をキープしていた春音さんの口も、いくらかほぐれてきた。やっぱり緊張していたんだな、と思う。そりゃあんな風に、おれの母に 「ご趣味は?」 「得意なお料理は?」 「お休みは何していらっしゃるの?」 などと質問攻めにされていたら、無理もない。
「すみません、うちの母がいろいろと。疲れたでしょう」
 あれじゃ、見合いというよりは、はっきりと 「面接」 だもんな、と思うと、おれは本当に春音さんに対して、つくづく申し訳なくなった。春音さんは一応どの質問にも無難に答えていたし、母もそれなりにその答えに満足してはいたようだったけど、隣で聞いているおれのほうが、よっぽど居たたまれなかった。
「いいえ、お見合いなんですもの。そうやって相手のことを訊ねるのは当然のことですわ。だって私たち、まだ釣り書きの内容のことくらいしか、お互いのことを知らないんですものね」
 ふふ、と朗らかに春音さんは笑ったが、おれは気まずい思いで曖昧に笑い返すことしか出来なかった。
 すみません、おれはまだ、あなたの釣り書きさえ目を通していません。これから見ることもないと思います。
「それに、私の母があの場におりましたら、同じように哲秋さんのこともいろいろと訊ねたでしょうし」
 と言われて、そうだよなあ、とおれも内心で納得した。
 そうやって、(本来なら) 書類と写真とで一次審査を受け、はじめて会ったその場で、この相手は結婚するに足りるかどうかを見極めなきゃいけないわけだ。いいかな、とちらっと思って、じゃあお付き合いをということになったら、それはもう、結婚を前提に、ということが自動的に決まってしまう。それが 「見合い」 というシステムなのかと思うと、なんとなく恐ろしいものがある。

 ──いや無理だよな、とおれは思った。

 こんな短時間で結婚相手を決めるということが、おれにはどうしても不可能に思える。今はとても結婚だとか男女交際だとかを考えられる状態じゃない、という個人的な理由を差し引いても、やっぱりおれには無理だ。
「春音さん」
 立ち止まり、名を呼ぶと、春音さんは振り返ってにこりと笑った。やめて、その無垢な笑顔。こっちの心臓が苦しくなってくる。
 ホテルの庭には何人かの客がいたが、パリッとしたスーツ姿の男と振り袖姿の女、という組み合わせはどう見ても見合いだと判るらしく、誰もが遠慮するようにおれたちの周囲から離れた位置にいた。うん、これなら誰にも会話の内容を聞かれずに済みそうだ、とおれは意を決して口を開いた。
「あの……大変、申し訳ないのですが」
 そう言っただけで、春音さんの口許から、すうっと笑みが消えた。みるみる眉を下げられて、おれは内心のオロオロを懸命に押し潰す。男は女を守るべし、という祖父の教えを守り抜き、幼い頃から常に女の子には優しくすることを心がけてきたおれは、こういうのにからっきし弱い。見るからに庇護欲をそそるこの女性が泣きはじめたら、どうしたらいいのだろう。おれも泣きそうだ。
「すみません、見合いの場に来ておきながら、こんなことを言うのは身勝手も承知なんです」
 今こそ痛感した。見合いだから会ってから断ればいいや、なんて簡単な問題では断じてない。見合いだからこそ、相手は真摯な気持ちでここに来ているのである。浅はかな考えしか持たずに、ここまで来たおれが間違っていた。
 だとしたら、せめて、おれは春音さんに対して、誠心誠意、謝罪しなければ。
「本当に、申し訳ありません」
 深々と頭を下げてから、もう一度きちんと春音さんと目を合わせた。
「……おれはまだ、誰とも結婚する気はないんです」
「…………」
 一拍の間の後で、消え入りそうな声が耳に届いた。
「あの──私、哲秋さんに、何か失礼なことを」
 春音さんに悲しげに目を伏せられて、おれは慌てて手を振る。
「いえ、とんでもない! 春音さんはとても魅力的なかただと思います! ただ、あの、相手がどんな女性でも、今はまだ、結婚は考えられないというか……すみません! 悪いのはすべておれなんです。どうか、春音さんのほうから断りを入れていただけませんか」
 見合いにおいて、男から女に対して断るというのは、かなり非礼にあたるというのは知っている。断られた女性は傷つくし、今後の縁談に支障が出るかもしれない。しかもおれが見る限り、春音さんには断る理由というものが今のところ存在しない。かといって、何も言わなければその意思ありと思われて、速攻で次に会う場が仲人おばさんによって設定されてしまう。

「……私のほうから、ですか」

 しばらくの沈黙の後で、春音さんがぽつりと言った。
「はい。適当な口実をつけて」
「適当な……」
「今回のことは、本当におれが軽率でした。今後のこともあるでしょうし、仲人の方の顔を潰さないように、ちゃんと取り計らいますから」
「…………」
 春音さんは考えるように顔を下に向けて、顎のあたりに手を当てている。頼むから泣きださないでね、とおれはハラハラしながらその様子を見つめた。
 が、ややあって、再び彼女が顔を上げた時、その口元にあるのはほんのりとした微笑だったので、心からほっとした。わかってくれたか、と胸を撫で下ろす。
 その微笑みを動かさず、春音さんは少しだけ、唇を動かした。
 かすかな音が漏れる。
 え。
 それを聞いて、おれはぽかんとした。空耳か。聞き間違いか。

 ……今、チッて、舌打ちしなかった?



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